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111.影者、膝を打つ

 


 捕虜となってしまった部下たちを、隊長である彼は瓦礫の陰から見守っていた。


「流石にあの人数、私一人では厳しいな」


 グリフに襲われた隊長は床をぶち破って落下した時にどさくさに紛れて難を逃れていた。

 とはいえ任務の遂行が難しいとしても、あの二人を見放して逃げ帰ることは出来ない。もちろん彼らを心配してのことだが、彼の憂慮はもっと別のところにある。


(余計なことを喋る前に何とかしなければ!)


 グリフォンに襲われた時、あの二人は一目散に逃げて行った。

 それを隊長である彼は知っていたのだ。


 確かに逃げろと命じたが、それにしても清々しすぎる。最近の若者は部族の誇りなど微塵も持ち合わせていない。そんな奴らが敵の手に渡ってしまえばどうなるか。

 自分の命欲しさに簡単に口を割ることだって容易いだろう。


 もしそうなってしまえば族長であるルプトに多大な迷惑が掛かる。こちらの不利になることは極力避けなければならない。


「なんとか隙を見て救わなければ」


 幸い周りは未だ薄暗いままだ。ならばこの暗さに乗じて近づくことだって出来る。けれどあの視線を遮るものがなければやはり難しい。


「何か陽動になるものがあればいいんだが……そう都合良くは――」


 その瞬間。

 宵闇を割くように空の彼方が赤く輝いた。


 空気を圧し潰すような爆音と天をも焦がす炎。

 森の奥から発生したそれの正体に隊長は息を呑んだ。


「これはルプト様の……」


 方角から見てあの場所には雷火の長、ルプト・マグナルィヴがいる。

 それを察した隊長はいよいよ腹を決めた。


 アレが起こったということは敵が攻めてきたということだ。

 雷火と戦うには戦力差は明らか。ならば敵の長を狙うのは定石と言える。つまり、今のはルプトの元に敵の刃が届いたことを意味する。


「これはうかうかしていられん!」


 状況が変わったことで隊長は作戦を変更した。

 部下の救出は諦める。元々の任務遂行を選んだのだ。


 そして今は絶好のチャンス。

 突然の事態に敵の注意は外に向いている。これならば当初の目標を果たせるかもしれない。

 敵の大将を仕留めればこの争いも終わるのだ。その対象が子供というのはあまり気分の良いものではないが、そんなことを言っている場合ではない。




 こっそりと近づく敵に気付くことなく、突如起こった爆炎に皆は目を奪われた。


「ううっ、今度はいったいなんなの?」


 気分の悪さを堪えて、イェイラはえづきながらも顔を上げる。

 ちょうど魔王城の正面の森の奥からの爆炎だ。誰が何をしたのかは分からないが……ヘイロン以外の皆は魔王城の防衛にあたっている。


「おそらくヘイロンだろうな」

「ハイロ、大丈夫かなあ?」

「彼なら丸焦げになっても生きてるよ」


 笑いながら言うモルガナは弟子の心配などまったくしていない。

 ちゃんと心配してくれているのはニアくらいのものだ。


「それにしても、あの規模の雷炎……流石、一族を束ねるだけはあるな」


 燃え盛る雷炎を見つめてローゼンは感嘆の声を上げる。

 もし最初からアレに襲われていたなら、どれだけ防衛したって無駄だったろう。そこまで考えてある疑問が湧き出てくる。


「どうしてお前たちの長はああして奥に引き籠っているんだ?」


 雷火たちの目的はニアであるとヘイロンは言った。

 実際、たった今襲い掛かってきた雷火の二人はその気でいたのだ。標的の居場所が分かっていたなら、こうして物量で攻めるようなやり方をしなくてもいいはず。


「ルプト様、今回の件についてそんな乗り気じゃないって話」

「うんうん。隊長もそんなこといってた」

「ならどうして強硬に出たんだ?」

「どうしても何も、あの人間たちのせいだ」


 かくかくしかじか――二人から事情を聞いたローゼンは考え込む。


 どうにも今回の襲撃には黒幕がいるらしい。しかもその黒幕とヘイロンは浅からぬ関係がある。なんせ彼の元仲間が関与しているのだ。ならばローゼンの敵でもある。


「これはもしかして、初動を誤ったかもしれない」

「どういうこと?」


 深刻そうな顔をしているローゼンにイェイラは問う。

 彼女が何を思い詰めているのか全く分からない。たった今危機を乗り越えて、あとは敵の大将を叩くだけだ。


 なんとかなるかもしれない、なんて楽観視していたイェイラだったがあの様子を見るとそうでもないのだろうか?


「雷火たちが攻めてくるなら迎え撃つだけだと思ったんだが……傭兵時代の悪い癖が出てしまったってことだな」

「ええ?」


 意味が分からないと困惑するイェイラに、それを聞いていたモルガナが可笑しそうに笑みを浮かべた。


「武力衝突ではなく、話し合いが最適解だったってことだろう?」

「そうだ。いわずもがな、ヘイロンはそんなことは少しも考えない」


 ローゼンは苦い顔をして答える。

 彼女の話にイェイラは深く頷いた。ヘイロンとの付き合いは長くはないが、簡単に想像がつく。


「でも仮に話し合いをしたとしても、その後どうするつもりだったの?」

「うーん……そうだなあ」


 魔王の座を狙っているというのが半分嘘だとしても、この状況を話し合いでどうにかできるとは思えない。


「敵の敵は味方ってことだね。上手くすれば同盟を組めるかもしれない。ヘイロンもこれについてはやる気満々だろうから、嫌な顔はしないはずだよ」


 どうやら利害の一致で何とかできそうだ。

 もちろんこれは想像の域を出ない。けれど今の状況からみればかなりの良案だとイェイラは思った。


「なら今からでもそれって間に合う?」

「い、いまから!?」

「そう!」


 イェイラの突拍子もない発言に、ローゼンは目を丸くして遠くに見える雷炎を指差した。


「この状況から話し合いに持ち込むって言うのか!? それはいくらなんでも」


 ――無茶だ。


 そう否定しようとしたローゼンの視界に人影が写り込んだ。



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