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107.朋友、奮起する

 

 空気を震わす雄叫びに、組み敷かれているラオシャは顔面蒼白となった。


「なっ、なんなんだよぉ!」


 本能的な恐怖と身の危険を感じて、彼はハイドを出来るだけ刺激しないように息を呑む。


 突然吠えたハイドに、へたり込んでいたレコフは目を丸くした。

 しかし驚愕しているのは彼だけではない。この場にいる全員――イェイラでさえもこの状況に困惑していた。


「お、おい! あいつ、どうしたんだ!?」

「……様子がおかしい。いつもはあんなじゃなかったはずだ」


 ローゼンは雄たけびをあげるハイドを目前にして、剣に手を掛ける。

 もしいまハイドが襲ってきたら、ニアだけでも守らなければならない。ヘイロンに約束したのだから、それは絶対だ。


 けれどそれはもしもの話だ。

 あの状態のハイドを鎮められるのはイェイラだけ。いわば、この先の命運は彼女にかかっている。


 息を呑んで見守っていると、イェイラはハイドの様子を見て一歩後退った。


「な、なんで……どうして。だって私、なにも」

「――イェイラ!」


 誰かが名を呼んで手を引いてくれた。

 小さな手はニアのものだった。彼女はハイドから引き離すように、イェイラを後ろへと引っ張ってくれる。


「ニア……」

「ハイドおこってる?」

「そう、みたいね」

「なんで?」

「……わからないの」


 ニアの質問にイェイラは答えられなかった。

 どうしてああなってしまったのか。その心当たりがまるでない。さっきまでは何ともなかったのに。


 ハイドがイェイラのコントロール下にないというのは、それほど珍しいことではない。

 以前ニアを救った時のように、幽体から実体に移せば自ずとハイドはイェイラの手元から離れて行ってしまう。


 けれど今回のことは、その手順を踏んでいない。勝手に手綱を千切って逃げ出してしまったのだ。


「イェイラ、あれはどうすればいい?」


 難しい顔をしていると、ハイドの様子に気を配りながらローゼンが近寄ってきた。

 彼女の片手は剣に添えられている。警戒は解いていないということだ。


「このままの状態ではどうなる?」

「今のハイドは私の命令を聞いてくれないの。だから……ここにいる皆を殺すまで止まらないと思う」

「そうか。なら止めるしかないな」


 イェイラの答えを聞いて、ローゼンは即決した。

 彼女は少しも臆していない。それどころか、やる気満々まである。


 それに驚いて、イェイラは慌ててローゼンを制止した。


「止めるって……っ、あのハイドに勝てるわけない! あの子は影だから死なないし、どれだけ打ちのめしても起き上がってくる。不死身なのよ!? 逃げた方が良いに決まってる!」

「何も殺そうとは思っていないよ。動きを止めるだけなら出来るはずだ」


 ローゼンの指摘にイェイラは思い出す。

 以前ヘイロンは暴走したハイドの相手をした。彼は重力魔法でハイドの動きを封じたのだ。

 けれどあれは彼だから出来た芸当でもある。


 ローゼン一人でハイドの相手なんて、死にに行くようなものだ。


「……っ、やっぱりダメ! 今すぐ逃げて! 私なら少しは囮になるだろうから、その隙に」

「周りは敵に囲まれている。そんな状況で城外に出るなんて、それこそ自殺行為だ。私一人ではニアを守り切れない。だから、今ここを捨てるわけにはいかないんだ」


 イェイラの説得にもローゼンは引かなかった。

 彼女は既にハイドを睨みつけている。覚悟を決めたのだ。


「それに私だけではない。あの二人にも手伝ってもらう」

「お、俺たちもか!?」

「当然だ。やらなければアレに襲われて死ぬだけ。そんな死に方は嫌だろう?」

「ぐぅ」

「それとも仲間を置いて逃げるか?」

「ばっ、馬鹿をいうな! 俺たちは雷火だぞ!? そんな真似できるか!」


 ローゼンの啖呵に、レコフは立ち上がった。

 先ほどまで泣いていた者とは思えない。やるときはやる奴だ。彼の奮起にローゼンは少しだけ見直した。


「ハイドに攻撃は通じるのか?」

「ええ、今のあの子は実体になってるから触れる。でもどうするつもり?」

「特別なことは何もないよ。ただ起き上がる暇がないほどに徹底的にぶちのめす!」


 脳筋な作戦にイェイラは呆気にとられた。

 理性的な彼女でもこんなことを言うんだ。なんて思って、そういえばヘイロンと同郷なのだと思い出す。


(根っこは同じなのね……)


 それが何だか可笑しくて、イェイラは少し笑んだ。


「わかった。あなたに任せる。私はあの子が元に戻る方法を考えるから」

「ニアも!」


 イェイラとニアの様子を見て、ローゼンは微笑む。

 けれどその笑顔はすぐに消えて、鋭い目つきで剣を抜いた。


「まずは下に敷かれている彼を退ける」

「わかった。ラオシャ!」


 ローゼンの作戦にレコフは声を張り上げた。

 戦友の呼びかけに、涙目になっていたラオシャは顔を上げる。


「死にたくなかったら覚悟を決めろ! 大丈夫だ! お前なら出来る!」

「バカヤローっ! 全然励ましになってないんだよ!」


 涙を引っ込めたラオシャは文句を言いながら打開策を考える。

 この状況から抜け出すには一つしかない。今の彼にはキツイことこの上ないが、やるしかないのだ!


ここまで読んでくれてありがとうございます!

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