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105.影者、腹を括る

 

 玉座の間でローゼンは城外から聞こえてくる鬨の声に耳を澄ませていた。


(あまり状況は良くなさそうだ……)


 他の皆は雷火たちの対応に出払っているが、あの防衛はあくまでも時間稼ぎ。そもそもが、戦力差がありすぎる。

 攻めてくる雷火たちをすべてどうこうできるとはローゼンは思っていなかった。


 ゆえに、いずれここまで攻め込まれるだろうと彼女は読んでいた。

 もちろんそれはイェイラとニアには伝えていない。それを知ってしまえばニアは良いがイェイラは確実にパニックになると予想できるからだ。


 この状況で説明するのも宥めるのも面倒である。


「みんな、大丈夫かな……」

「ニア、あまり不安になるようなこと言わないで」

「でも、敵たくさんいるよ?」

「そうだけどぉ」


 彼女の背後では二人がこそこそと話をしている。

 それを聞きながらローゼンは勿体ないと思った。


 イェイラの能力があれば大抵の敵は相手にならない。けれど元来争いを好まない彼女はこうして気が弱い所がある。

 兵士としての素質は殆どない。どれだけ力が強くとも意思が伴わなければ戦えない、という良い例だ。


「城内にも罠を張ってある。少しなら持つはずだ」

「も、もしここまで来られたら?」

「その時は応戦するしかないな」

「やっぱりそうなるわよね……ううう」


 ガックシと項垂れたイェイラをニアが慰める。

 もう何度も見た光景だ。


「ヘイロンからも君たちを守るように言われているから、安心してほしい。いざという時はグリフに乗って逃げてもらう。だからそんなに怯えなくても――」


 突如、上から爆音が響いた。

 何かがぶつかるような音と、それに伴って瓦礫の崩れる音。

 それに咄嗟に顔を上げた直後、砂埃が舞い上から何かが降ってきた。



「なっ、なになになに!?」


 慌てるイェイラの声は聞こえるが砂埃が邪魔をして姿は見えない。


 今のローゼンの視界には瓦礫と砂埃。そして燃え盛る炎――それを視認した瞬間、凄まじい風圧がこの場にいる者たちを吹き飛ばした。


「くっ、いったい何なんだ!?」


 敵の奇襲かと身構えたローゼンだったが、何かがおかしいと直感が告げている。

 風圧のおかげで砂埃が払われて、徐々に視界が晴れていった。


 玉座の間に降り立ってきたのは、グリフだった。

 けれど彼の身体からは雷炎が立ち昇っている。


「あつい! あっつい!!」


 慌てて炎を払おうとするが、どれだけ羽ばたいても巻き起こった風圧では雷炎が剥がれることはなかった。

 身体の末端だけならどうにかなったかもしれない。

 しかしすでに大部分を炎に覆われてしまったら、自力であれから逃れる術はないだろう。


「うぐっ、これはマズイな」


 近づこうにも風圧が凄まじく、踏み出した足は前に進まない。

 落ち着いてもらおうにもあの炎をどうにかしないとダメだ。

 けれど目の前の状況を理解したローゼンは無暗に動くことはしなかった。


「ローゼン!」


 暴風に晒される中、離れていたイェイラとニアが傍に寄ってきた。

 二人が無事だったことに安堵して、ローゼンは帯刀していた剣に手を掛ける。


「どうしよう!?」

「今はどうにもできない」

「あの状態で放っておけっていうの!?」

「それが一番だ。グリフォンならあのくらいの攻撃では死なないはず」


 ローゼンが懸念している問題は別にある。


「しかし参ったよ。あそこまで痛めつけられては、ここから飛んで逃げることも出来なくなってしまった」


 冷静に状況を断じたローゼンに、イェイラは顔を青ざめた。

 隣で引き攣った声を聞きながら、ローゼンはチャンスを待つ。


 グリフを燃やし尽くしているあの炎は雷火のものだ。

 あそこまで盛大ならば、当然敵の魔力消費もすさまじい。彼らは雷炎に変化できるが、魔力がなければそれも出来ない。

 きっとこの後に大きな隙が生じるはず。


 もちろん、戦い慣れているローゼンがそれを見逃すはずがない。



 次第にグリフが巻き起こす風が弱まってきた。

 それを見計らってローゼンは一人駆けだす。

 彼女の迅速な対応に置いて行かれた二人は呆然と目の前の光景に釘付けになっていた。



 耐えきれなくなって倒れたグリフに纏わり付いていた雷炎は、徐々に消えていってその姿を露わにする。


「……やったのか?」

「お、おれたち……生きてる!?」


 雷火の兵士、レコフとラオシャは手を取り合って喜んだ。

 グリフォンに襲われた時は死を覚悟したが、案外なんとかなるもんだ!


 奇跡の生還を果たしたのも束の間。

 ふと見えた視界に、人影が見えて二人は顔を見合わせた。


「あれって……」


 レコフは目を眇めて遠くにいる二人を見つめる。

 女と子供。

 子供、ということは――


「あれ、俺たちが探していた標的じゃないか!?」

「本当だ! ってことは……あれを殺せば」

「もうこんな場所にいなくてもいいってことだ!」


 闇の中から輝く眼光に、ニアを抱きしめてイェイラは後退りする。


「これ、すっごくヤバいんじゃ……」


 暗闇の中では襲われてもすぐに対応できない。

 相手がどこから襲い掛かってくるのかも分からないのだ。


 ニアを置いて行こうとはこれっぽっちも思っていないが、このままでは死なば諸共になってしまう。


「イェイラ……」

「だっ、大丈夫よ。置いていったりしないから」


 雷炎が消えて二人の周りはまっくらなまま。

 イェイラは腹を決めると携帯していたカンテラに明かりをともした。


 居場所を知らせるようなものだが、今日は運の悪いことに月が雲に隠れている。月光が照らさない深夜だ。


「ハイド……お願いね」

「ウン」


 イェイラの相棒であるハイドは完全な暗闇では姿を現せない。多少なりとも光源がなければ影から出てこられないのだ。

 グリフが乱入してくる前に灯していた燭台の蝋燭は、巻き起こされた風で消えてしまった。


 ハイドに頼るならば居場所を知られる前提で明かりをともさなければならない。



 傍にハイドを侍らせて、イェイラは息を潜めた。

 周囲からの物音は一切ない。


 雷火たちは獣人だ。彼らにとって気配を消して近づくことは容易だろう。

 足音も、息遣いも何も聞こえない暗闇の中――その時は来た。


ここまで読んでくれてありがとうございます!

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