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101.翼人、信念を掴む

 

 ヘイロンのすべきことは一貫している。

 敵の大将の首を取ること。それだけに集中できるよう、ニアの安全を第一に置いた守りをローゼンは考えてくれた。

 これもヘイロンの実力を信頼しての戦術だ。


 魔王城の外に出ると、周囲が淡く光っていた。

 森の奥から、絶叫と爆音。夜の闇を割く閃光が輝いている。

 ヘイロンが罠を張ったのは魔王城の左方。一方の右方はモルガナの管轄になっている。


 そちらからは断末魔が絶えず響いてくる。


「こえぇ……絶対敵に回したくねえな」


 いったい何をどうやったらあんなに苦しそうな叫び声が聞こえてくるのか。

 肝を冷やしていたヘイロンの頭上から、突然何かが降ってきた。


「うおっ――」

「待たせたな。戦況はどうなっている?」


 今まで歩哨を務めていたグウィンが監視塔から降りてきた。イヤ、降ってきたと言った方がしっくりくる。

 彼は飛べないが、落下の衝撃は低減できるらしい。翼人としては物足りない能力だが、人間から見たらそれなりに有能でもある。


「どうもこうも。御覧の通りだ。張っておいた罠のおかげで、ここまで辿り着く輩はまだ見えないな」

「夜襲を選んできたということは、雷火も夜目が利くんだろう。人間には厳しい相手かもしれないな」

「そうか? そうでもなさそうだぜ」


 ヘイロンが見据えた正面の森の奥が、瞬間的に光った。

 ――と、同時にものすごいスピードで何かが森から駆けてくる。


 雷火の雑兵だ。

 彼らは真正面から挑むつもりらしく、突っ込んでくる。

 しかし魔王城の正門には鉄壁の身体を持つミディオラが構えている。


 彼の身体はほぼミスリル鋼で覆われていた。

 どんな攻撃も寄せ付けない。それは雷火が使う雷炎とて同じ事。


「なっ、何だコイツは!?」

「トカゲ!? でかいトカゲだ!」


 正門を巨体で塞ぐミディオラに襲撃者たちは狼狽える。

 そんな彼らを眼下に見据えて、ミディオラは吠えた。


「オイラはぁ! トカゲじゃない! ドラゴンだっ!」


 巨体をしならせると、木の幹ほどもある尻尾の打撃が飛んでくる。

 それに襲撃者たちは飛ばされたり雷炎に変化して避けたり。連携の取れた動きは出来ていない。それぞれが散り散りになってしまった。


 ミディオラの役目は入り口である正門を塞ぐこと。これが出来ると出来ないとでは、城攻めの難易度は段違いだ。

 だから何をされてもそこに居てくれればいい。


 なんとかミディオラの攻撃の隙をぬって城内に入れたとしても、それを許さないためのグウィンである。

 彼の身体は周囲の環境によって色が変わる。今は深夜。この暗闇では夜目が利いても見つけられないだろう。


 いくら雷火といえど、彼らはずっと雷炎に姿を変えるわけではない。おそらく、魔力を消費するのだろう。そしてそれは燃費の良いものではない。

 必ず生身になる瞬間は訪れる。そしてそれを見逃すグウィンではなかった。


「あのトカゲ。図体がでかいだけの、ただのでくの坊だ。我らの脅威にはなり得な――いっ」


 背後からの奇襲。

 首筋にナイフを当てられて、侵入者は息を呑む。


「動くな」

「き、きさま……なんだ?」

「お前らに使い捨てられた駒の一つだ。正体を明かしたところでどうせ知るはずもないだろ」

「わ、われらを裏切るのか!?」

「何か問題でもあるのか? 使い捨ての駒でも頭は付いている。死ぬくらいなら遠慮なく裏切るもんだ。こんな風にな」


 ナイフの刃を滑らせて首を斬る。

 声も出せず苦しみながら倒れた敵を見下ろして、グウィンは深く息を吐いた。


「仲間内で殺し合うことほど愚かなことはないな」


 亜人にとって魔王の存在は良くも悪くもある種の楔になっていた。

 それが崩れた途端、今度は別の争いが生まれてしまった。敵は他にも居るというのに、目先の欲に駆られた愚か者ばかりしかいない。

 こんなだから、人間共に遅れを取るのだ。


「やはり、ここを選んで正解だった」


 この魔王城の住人たちはそんな我欲とは無縁に思える。

 もっともまだ出会って数日、彼らのことを良く知るには不十分だが、たった数日でもグウィンにはどこよりも過ごしやすい場所だと思えた。


 雷火たちはこの楽園を壊そうとした。

 だから彼も喜んで手を貸すのだ。



「――ヘイロン! こいつらの相手は任せてくれ。アイツらが散々突っ込んできたおかげで罠は大方剥げている。ルプト・マグナルィヴ様は、おそらくこの先の森の奥だ」

「りょうかい!」


 グウィンの援護にヘイロンは笑顔で答えると、駆けていく。

 目標は雷火の長であるルプト・マグナルィヴ。未知数の相手であるが、ヘイロンには雷火に対しての秘策があった。


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