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カジノ ファントム  作者: 津辻真咲
2/2

後編

第2章 後編


5.次期オーナー帰国


ゴォォォ。アメリカニューヨーク州からの直行便が空港に無事到着した。それには、オーナーの娘、香川唯かがわ ゆいが搭乗していた。


「ただいま」

 唯がカジノへ帰って来た。

「お帰りなさいませ。お嬢様」

ディーラーたちは頭を下げる。

「あの人は?」

 琴葉は杏奈に聞く。

「オーナーの娘の唯様よ」

「へぇ、あの人が」

琴葉はじっと見ていた。

「お嬢様はね。カジノは継ぎたくないの。でも、夏のバカンスを利用して帰国はするのよ」

「そうなんだ」

 杏奈の説明に琴葉は相槌をうつ。

「だから、次期オーナーは支配人ね」

「俺もそう思う」

 杏奈の会話に律が入って来る。そして、大翔も。

「やっぱり、支配人だよな」

大翔は笑顔で言う。

――支配人、人望があるんだ。

琴葉は支配人の方を見た。


「おぉ、唯。もう帰って来たのか。楽しみにしていたぞ!」

零は笑顔で出迎える。

「大げさね。毎年、帰って来てるでしょ?」

唯はサングラスを外す。

「それは、そうなんだが。次期オーナーは一応、お前なんだし」

零は少し傷心する。

「いやよ。次期オーナーなんて。私、アメリカで弁護士の仕事をしているのよ? 今の仕事が楽しいの。いいでしょ?」

「それはそうだが」

零は再び、傷心した。


「……」

樹はドアの前で、その会話を聞いてしまっていた。


カジノの屋上。今日は満月だった。

「どうしたの? 話って」

唯は夜の街を見渡す。

「どうか……」

 樹は言葉に詰まった。

「どうか、何?」

唯は振り返る。すると、樹は頼みを口にする。

「次期オーナーになっていただけませんか?」

「どうして、私に? あなたがいるでしょう?」

 唯はさらりと答える。

「私では、務まりません。あなたの方がふさわしい」

「でも、私には弁護士の仕事があるの」

「それは、分かっているのですが」

樹は俯いた。すると、彼の様子に唯は口を開く。

「いいわよ」

「え」

樹は彼女を見た。

「その代り、条件があるわ」

「条件?」

「私の婚約者になって」

「え?」

 樹は少し戸惑う。

「だめ?」

「あの、どうして……」

 樹が問うと、唯は苦笑して答える。

「ずっと想っていたの。月が嫌いになるくらい」

「……」

樹は驚いた。すると、唯は涙を流す。

「日本に帰国しているのだって。全部あなたの……」

「私のためだったのですか?」

 唯は頷いた。

「……分かりました」

――これもカジノのため。


「何だって!」

零は驚く。

「カジノを継ぐ!?」

「でも、今、話したことが条件よ」

 唯はぴしゃりと言う。

「何いぃぃ!? 本気か!?」

 零は再び、驚く。

「樹! 本気なんだろうな!」

「はい」

「仕方ない。それでいい」

零は渋々、納得した。


カジノ メインホール

「おもしろくなーいって顔してるわね?」

杏奈は琴葉に向かって言う。

「な、何!?」

琴葉は驚く。

「支配人のこと好きなの?」

 杏奈は率直に聞く。

「そんなことないです」

「ならいいいけど」


廊下。二人はちょうどはち合わせた。

「ご婚約おめでとうございます」

 琴葉は頭を下げる。

「嫌味か?」

「え?」

 琴葉は樹の言葉に顔を上げる。

「私は彼女のことは愛してはいない」

「え。じゃ、どうして?」

「カジノのためだよ」

「カジノのために好きじゃない人と?」

「それも人生だよ」

「良くないです! そんなの!」

「どうして、そう思う?」

「えーっと……」

「答えられるくらいになってから、私のことを説得したらどうだ? それじゃ」

樹は琴葉の目の前から立ち去った。琴葉は一人取り残された。



6.二人の気持ち


「きゃー」

ディーラーと客たちが悲鳴を上げる。

「お前ら! ふざけんな!」

男性が暴れていた。

「お客様。どうなされましたか?」

――支配人!?

制圧に来た琴葉は振り返り、驚く。

「どうなされたじゃねぇ。お前ら、いかさましてるだろう!」

男性は刃物を取り出した。

「お客様。刃物はお納め下さい」

樹は冷静に対応する。

「うるせぇ!」

男性は刃物を振りかざす。そして。

「!」

ディーラーたちも騒然とした。

琴葉が樹をかばい、右腹部を負傷した。

「琴葉!」

見ていた杏奈が叫ぶ。

すると、琴葉はその拍子で間合いが近づいた男性を羽交い絞めにし、制圧した。しかし、制圧後、琴葉は意識を失い、その場に倒れた。

「きゃー」

客たちからは悲鳴が上がった。


病院

樹は病院でずっと付き添っていた。すると、琴葉が目を覚ます。

「あなたも無茶をするんですね」

 樹はいつも通り、嫌味を言う。

「支配人。もしかして、ずっと?」

「えぇ」

 すると、琴葉は苦笑して言う。

「支配人もでしょ? 無茶するの」

「そうでしょうね」

「そんなにカジノが大事なんですか?」

「そうだな。兄との夢だったから」

「次期オーナーの座を譲ってまでも?」

「私よりも唯さんの方が求心力がある。次期オーナーにふさわしい」

「そんなことないですよ。ディーラーの皆さんは」

「そうとは思えんが?」

「もっと皆さんと話してみては?」

「どういう意味だ?」

「皆さん、支配人のこと慕っていますよ」

「だから何だと。私にオーナーは……」

「それ以上言っちゃダメ!」

「え?」

「それが本当になっちゃうでしょう?」

「だから、なぜ」

「がんばっていることは他人が決めることじゃなくて、自分で決めてもいいんじゃないかな?」

「……」

樹は黙った。言い返せなかったのだ。

「本当の気持ち言っても、誰も責めないよ?」

琴葉は笑顔で言う。すると、突然、樹は席を立つ。

「失礼します」

そして、そのまま、立ち去った。廊下に出てドアを閉める。すると、涙を流した。

一方、廊下の向こう側には唯がいた。唯はそれを目撃したのだった。しかし、そのまま、話しかけずに帰って行った。

――一体何が?


次の日、カジノ。

「ねぇ、あの子誰?」

 唯は大翔に尋ねる。

「はい? あの子?」

 大翔は首を傾げる。

「昨日刺された」

「あぁ、森琴葉ですか?」

「そう、その子」

「ここの警備員だとしか……」

「ふうん。まぁいいわ。下がって」

「はい」

 唯はその返事を聞くと、立ち去って行った。

「どうしたんだろう、唯様」

「そうね。様子が変」

 律と杏奈が話し合う。そこへ大翔が会話に入って来た。

「支配人も様子が変ですよね?」

……。

「あんた何話に入って来てんのよ! 警備!」

 杏奈は怒る。

「こりゃ失敬」

大翔は敬礼をすると、立ち去った。

「にしてもなぜだろう」

 杏奈が考え込む。

「まさか!」

 律が何かを思いつく。

「まさか何!?」

「昨日、病院で何かあった? とか?」

「ビンゴ!」

 杏奈は指を鳴らす。

「まじか」

 大翔が相槌をうつ。また会話に入って来たのだ。

「あんたは警備!」

「ちぇえ」

杏奈が怒ると、大翔は渋々、立ち去って行った。


オーナー室

「失礼します」

 樹がノックをし、入って来た。

「どうした? 樹?」

「相談があるのですが」

 樹は少し、申し訳なさそうに言う。

「相談?」

「唯さんのことです」

「あぁ、結婚のことか。確かに日本の法律だと結婚できないな。それがどうした? 事実婚でもいいんだぞ」

「……それが」

 樹は言葉に詰まる。

「なるほど。好きな奴が出来たんだな」

「なぜ、それを」

 樹は零を見る。

「分かるさ。お前の兄だぞ」

「……」

「唯には私から言っておく。次期オーナーもお前でいいよ」

「しかし」

「ずっと前から考えていた。唯が帰って来なかったらということを」

 零は苦笑した。


次の日、病院。

樹は花束を持って行った。すると、琴葉が目を覚ます。

「あれ? 何で?」

 琴葉は身を起こす。

「せめて花がないとな」

 樹は花瓶に花を入れていた。

「ありがとうございます」

「別に」

「何かあったのですか?」

 琴葉は樹の様子に気付く。

「え?」

「なんとなく」

「婚約破棄になりました」

「え!? 何で!?」

 琴葉は驚く。

「責任を取ってもらいたく」

「え!? 私のせい!?」

「だめですか?」

「そ、それは……」

ちゅ。

「!?」

 琴葉は再び、驚く。

「では、カジノで待っています」

すると、樹はそう言うと、病室から立ち去って行った。

――ま、まさか。両想いだったの!?

琴葉は顔を赤くした。



7.夜景


 カジノ屋上。

「綺麗」

 琴葉は屋上からの夜景を見て、表情を明るくする。

「ここら辺もかなり土地開発が進んできましたね」

 樹が話しかける。

「そうですね」

 琴葉は相槌をうつ。

――本気なのかな? 病院でのあの……。

 琴葉は夜景に集中できずにいた。

「どうしたのですか?」

 樹は彼女の様子に気付く。

「いや。あの、支配人は本当に……」

 琴葉は言葉に詰まった。すると。

「確かめてみますか?」

 樹は琴葉を抱き寄せて、唇を奪う。

「!」

 琴葉は驚く。が、瞳を閉じた。

 今日は満月だった。

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