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チュートリアルで引退したノービス冒険者、1000日後に古代の力を手に入れる  作者: 佐藤アスタ
第三章 王都争乱

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変化と名前と看板と

 ゴードンから解放されて、一番の変化は何だろう?


 もちろん、ターシャさんの顔をいつでも見られるようになったことは、素直に嬉しい。

 過労死しそうなほどの仕事量が減って、生活に張りが出てきたのも大きい。


 だけど、一番の違いは――


 俺は、この間のことを思い出していた。






「さて、テイル」


「は、はい」


「さっき、商業ギルドでの野暮用ついでに、この別館の登記を確認してきた」


「そ、それでどうだったの、ダンさん?」


「急かすなターシャ。窓口でそう言った途端、職員たちがざわつきだしてな、お前の予想通り、奥で事情聴取みたいなものを受けた」


「ええっ!?まさかそのまま捕まって、牢屋に入れられちゃったりしたの!?」


「だから急かすな、ターシャ。そもそも、牢屋に入れられた俺が、どうやったら今ここで話ができると言うんだ?」


「あ、そっか。ごめんごめん、あはは」


「まったく……、まあ、ギルド幹部らしき数人に色々聞かれたりもしたが、テイルの言う通りに知らぬ存ぜぬで通したら、思ったよりは時間がかからずに登記簿を見せてもらえた」


「それで、どうだったんですか?」


「お前の言った通りだった。この別館の所有者が、ゴードンからお前に書き変わっていたぞ、テイル」


 そこまで聞いたところでようやく、全身から力が抜けた思いがした。


『もしくは、養子のテイルを成人させた上で、こちらで指定した従業員と財産を分与することで、刑の執行を十年間猶予するものとする』


 ジュートノルの中心である政庁舎で、ゴードンに向けてその言葉を言い放った、ジオ。

 これまでの色々で、それなりに為人を知ったつもりになっている。未だに正体が知れないというのがずっと引っかかっているけど。


「つ、つまり、どういうことなの?」


「つまりもなにも、この別館の主はテイルだということだ」


「えええええっ!?」


 どうやら、ジオの言ったことは本当だったらしい。

 ターシャさんの驚きの声を聞きながら、内心胸を撫で下ろしていると、ダンさんの顔がこっちに向いた。


「それでテイル、どうするつもりだ?」


「え、なにがですか?」


「なにがもなにも、全部に決まっているだろう」


「は……?」


「そうよねえ。いつまでも『白のたてがみ亭別館』じゃいけないし、一度商業ギルドにあいさつに行くべきよね。お得意様にもお知らせしないと」


「あ、あの、ターシャさん?」


「他にも、取引のある店も選び直さんとな。食材の仕入れは俺の伝手で何とかなるとしても、ゴードンとの繋がりでこれまで付き合ってきたところは、場合によっては契約を切るべきだろう」


「そ、それ……一体誰がやるんですか?」


「「もちろん、テイル(君)の仕事だ(よ)」」


「ええぇ……」






 幸いなことに、あの数々の無茶ぶりは、ダンさんとターシャさんの小粋なジョークだった。

 とりあえず、年長者のダンさんを料理人兼店長に、ターシャさんが接客係兼渉外担当、俺が今までの通り雑用係として、再スタートを切ることになった。


 ――え?店の主?

 経営のけの字も知らない俺に、店の主面ができるとでも?


「もちろんテイル君にも、私とダンさんの仕事を少しづつ覚えてもらうからねっ!」


 ……ターシャさんの笑顔には勝てないので、新しい仕事を覚えることになりそうだ。


 まあ、覚える量が量なので、その辺はおいおいということになるんだけど、早急にやっておくべきこともあった。






「テイル、新しい名前を決めろ」


「名前、ですか?なんの?」


「もうっ、さっき私が言ったばかりじゃない。この宿の名前よ」


「さすがに今までの名前は使えんだろう。本館の方は今、評判がガタ落ちだ。いつまでも名前を変えないと、こっちにまでとばっちりが来るぞ」


「それは分かりますけど、なんで俺が?」


「「テイル(君)がここの主だろうが(でしょうが)!!」」






 ていう感じの、二人からの有無を言わさない命令?の後で、一人で学のない頭を悩ませた結果、こういう名前に落ち着いた。


『白いウサギ亭』


「ふん、まあ無難なところか」


「かわいいっ!」


 ダンさんからは並、ターシャさんからは良の評価をもらったので、これで商業ギルドに届けを出した。


 まあ一応、理由のようなものはある。


 一つは、旧名となった、白のたてがみ亭の名残を残したかったことだ。

 ゴードンを始めとした嫌な思い出もあるにはあるけど、良くも悪くも俺の全てと言っていい場所だし、何より名前そのものに罪はない。

 あの頃のことを忘れないためにも、雰囲気程度は残しておきたい。


 もう一つは、単純に宣伝のためだ。

 始めたころは、単なる借金返済の手段でしかなかった俺の狩りだけど、幸か不幸か、俺が獲ってくるツノウサギを使ったダンさんの料理が、客の口コミで徐々に評判を呼んで、今ではうちの名物の一つにまでなっている。

 まあ、ウサギと名のつく宿でウサギ料理を出すのはどうなんだ?と思わなくもなかったけど、それで客の気が引けるのなら万々歳だ。

 それに、ダンさんの料理を食べた後で文句を言う客なんて一人もいないと、自信を持って言えるからな。


 とまあ、そんなことを思いながら、ダンさんとターシャさんの助言をもらって、素人ながら『クレイワーク』で作った置き看板の出来に、玄関の前で独り悦に入っていると、


「おいテイル!!床磨きが終わっていないぞ!!どういうことだ!!」


「すぐ行きます!!」


 朝のピークを終えて誰もいなくなった玄関に、厨房の方からダンさんの怒声が響き渡る。

 それにすぐさま返事をして、追い立てられるように仕事に戻る。


 だけど、今までとは違う明るい声を出している自分に気付くのは、ターシャさんにそう指摘されるもう少し先のことだった。

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