97 山へ
翌朝、それほど早くもない時間に、華はファーナ達と町を出た。
行商の幌馬車1台に、前日の戦利品と完成した文机と書見台、もちろん今朝搾ったばかりのミルクも積んである。
ミルクは売っていた一番小さな缶でも2、3リットル位あったので、ミルクは欲しいが量がちょっと…と思っていた華にとって、少しだけ分けてもらえたのは大変有り難かった。
ついでにと、取れたての鶏卵までいただいてしまって大喜びの華だった。
(プリン!作ろう!!)
華は藤棚さんに帰ったら真っ先に大好きなプリンを作ろうと思った。
(探したらキャッサバも見付かるかも知れないけど、生えてても見分け付かないよね…。今度市場に行ったら探してみよう)
米代わりや嵩増しで使われていたキャッサバだったが、華はそのタピオカが入ったプリンが大好きなのだ。
無いものは仕方がないし、そもそもお砂糖も白くないので、まずはある材料でプリンを美味しく作れるようにしようと思うのだった。
『また来てちょうだいね』
すぐにね。きっとよ。と朝食の時から何度も言うルナリアに、寂しいのかなと、同じく見送りに出てきたその息子のグレイルをちらりと見る。
(また見てる…)
夕べもそうだが、何故だかグレイルは気が付くと華をじっと見詰めているのだ。
その様子は明らかに普通じゃない。
もしかしてーー。
(ルナリアさんには死に別れた娘さんがいたんじゃないかな…)
夕べから何となく思っていたが、ルナリアが最初に『お母様と呼んでね』と言い、若い娘さん用の衣装がいくつも用意してあった。
そしてグレイルの止まない凝視。
(きっと、わたしにそっくりな娘さん…グレイルさんの姉妹がいたんだ。ファーナさんやアルベルトさんも孫可愛がりしてるもんね…)
そう、疑問に答えを導き出したのだ。
身代わりにしているとは思わないが、町に来たら顔見せには来ようと決めた華だった。親切にしてもらっていることは間違いないないのだし…、と。
もちろんグレイルは一人息子なのだが、同じ黒髪とグレイルの異常な凝視で納得のいく理由を考え、思い込んでしまったのだ。
ファーナに許されたグレイルが華に告白できるようになるまでは、この思い込みが解けることはないだろう。
別れを惜しむ夫妻とグレイル、それと文机や書見台などを持ってきてくれたホーソンに見送られて、屋敷に近い北門からいつもの護衛チームと馬車が出ていく。
右手に町の塀を見ながらぐるりと回り込んで東の街道に入り、山道へ入って行く。
二頭立ての幌馬車は、山道へ入っても大して速度も落とさないで進んでいく。
同時出発で華が歩いていたら、きっと倍以上の時間がかかった事だろう。
途中に一度休憩をしたが、普段、あの休憩場所くらいまでなら休憩無しで進むらしい。今回は馬車に乗り慣れていない華のために休憩をとったらしい。
そして山を登ったり下ったり登ったりしながらお昼過ぎ。
町から数時間ほどで藤棚さんの近くの休憩場所まで戻って来たのだった。




