表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、平和を願う。  作者: ちょこぼーらー
97/154

96 見てるだけ

 グレイルはファーナの言い付けをひたすら守っていた。


 ーーー挨拶以外、グレイルからは何もしてはいけない。


(何もするな、なんて)


 こうして見ているだけで胸がいっぱいなのに。


 あの大きな襟の服も可愛く似合っていたが、ルナリアの趣味だろうか、白色のワンピースに髪を下ろしてレースのリボンで飾り立てられた姿で階段を降りて来るのを見た時には駆け寄って跪きたくなってしまった。

 しかし祖母の言い付けを守りじっとしていた。


 正直に言うと言い付けは半分頭から飛んでいたのだが、華がグレイルに向かって歩いて来る事に感動して動けなかったのだ。


(歩いて来る。喋ってる。…なんか光ってる)


 白色のワンピースのせいか、グレイルには華がうっすらと光っているように見えていた。

 もう瞬きもしたくない。


 そんなグレイルは、何もしないどころか自分が挨拶すらしていないことにも気が付いていない。


『はい!グレイルさん。ラジネさん、お店…え~と、てんいんさん!』


 名前を呼んだ!!

 店で会ったことを覚えていた!!


 店員だと思われている事などグレイルはどうでもよかった。

 華に名前を呼ばれて有頂天になっていた。




 食事中もグレイルは食事をすることも忘れて華の食べる姿を見ていた。


(小さい口…可愛い……!)


 小さな口に料理を運んでもぐもぐと咀嚼する華はずっと見ていたいと思うくらい可愛いくて。

 隣で父が何か言っていたがそれよりも。


(ずるい…。あんなに仲良く話して…)


 グレイルにはシアと華がいちゃいちゃしているのが羨ましくて仕方なかった。

 自分は華と話せない癖に、シアと華の間に入りたくて仕方がなかったのだ。






 そんなグレイルに祖父母は危機感を募らせていた。


(これは怖い…)


 脇目もふらずとはこの事か。

 食事にも手を付けずにひたすらに華を見詰めるグレイルに、ラインハルトはどうしたものかと悩んでいた。


 息子が町で一目惚れをしたという。

 帰って来て早々に好きな相手が出来たのなら目出度い事だとさえ初めは思ったくらいだ。

 それがファーナやアルベルトの言う“ハナ”という少女だと言うのはまだいい。いくら重要案件だとしても、二人が“天使”だとか言うからにはさぞや愛らしい娘さんなのだろう。


 しかし、後を付けるのは駄目だ。

 ルナリアも泣いてしまった。檻に入れるべきか。


 ただ、ふらふらと後を付いて行ってしまっただけで何もしていないのは確かなようだった。相手にも気付かれていない。


 義母もグレイルの処遇には迷っていたが、結局処分保留というか、様子を見ることにしたようだった。

 グレイルがその少女と上手く行って家の嫁に来てくれれば…という思惑があるのは間違いない。


 昨日の時点では、肝心のその少女がグレイルをどの程度認識しているのかも不明だった。

 それが今朝聞いた話では、グレイルは顔すら覚えてもらっていない、なんと知り合い以下だったということが判明。


 それでも朝から少女に会えたと満足した顔をしている息子にラインハルトは心底不安になった。


 息子は帝国の、畏れ多くも皇家に連なる方に若年ながら推薦されて近衛師団入りし、皇子殿下の部隊で副部隊長まで務めたはずだった。

 それがーー。


(しっかりしてくれよ…)


 これからこの町の兵達の指揮官となる騎士が不審者として捕まるのが絶対駄目なのは勿論だが、そもそも騎士としての振舞いをして欲しい。


 そんな不安も、正式な着任前ではあるが昼の仕事ぶりを見て払拭したはずだったのに…。


 自宅に帰るまでは良かった。

 貿易の件でラインハルトの執務室に顔を出したアルベルトと一緒に前日のように3人で帰宅してーー。


 しかし、その少女を見た途端にグレイルは挙動不審になり、ラインハルトは危機感を覚えた。


 挙動不審とはいっても何をするでもない。むしろ何もしていない。挨拶すらしていない。


 ただひたすらに見詰めている。


(駄目だろうこれは…!)


 祖母の何もしてはいけないという言い付けを守っているのか、ただ見ているだけで満足しているのかは判らないが、これは怖い!


 こんな風に凝視されたら魔獣だって目を逸らしたくなるに違いない。


 これは何とかしなければと、グレイルを食堂から連れ出そうとしたラインハルトは、はっとしてルナリアを見た。


 華を挟んでシアの反対隣に陣取っているルナリアは、涙を浮かべた目でグレイルを見詰めて震えていた。


 ラインハルトが慌ててグレイルを追い出そうとした時、高く澄んだ声音が食堂に響いた。




『グレイルさん』


 華だった。


 グレイルの凝視に耐え兼ねてシアの方を向いていた華が、グレイルを見てグレイルの名前を呼んだ。


『ぉ……』


 大きく肩を揺らしたグレイルは、小さく呻き声を上げて動かなくなった。


 全員が固唾を飲んで見守る中、華はほんの僅かに前のめりになってグレイルに話し掛けた。


『きのう、ひがしもん、そと。にぐるま、おした?』


(昨日。東門。外。荷車?…………あ!)


『…………………ぅ』


 微かに呻いてぎぎっと小さく頷いたグレイルに、華がぱあっと笑顔になった。


『グレイルさん、かっこいい……え~と、かっこ良かった!』


 ルナリアの目からぽろりと涙が零れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ