94 ふかふかの
華が浴室から出ると、シアが洗濯に出すといって華の服一式の入った籠を何処かへ持っていった。
翌日の出発時間は聞いていないが、もう夕方でそろそろ暗くなってくる頃だ。有り難いがこれから洗濯して乾くのだろうか。
『ハナさん、ハナさん、こっちに座って!』
ルナリアが華の濡れた髪のお手入れをさせてくれと言うので大人しくソファーに座って髪を拭かれている。
手元に寄せたカバンの中から本柘植の櫛を出しながら、今ルナリアが華の髪を乾かしている布が普通の布であることに気が付いた。浴室にあったのも大きめの手拭いだった。
(タオル地…パイル地って言うんだっけ?あれも言ったら作ってくれるのかな。ふかふかのタオルがあったらきっと凄く流行るよね)
タオル地があっても高価で普及していないのかもと一瞬考えたが、幸せな気分になれるふかふかのタオルのことを考えるとそれはないなと思う。
ふかふかのタオルがここに有れば、きっと大量に生産されて大量に消費されるだろう。大量は言い過ぎかもしれないが、高級住宅街のお屋敷の客間に置けないほどの高級品にはならないはずだ。
(言うだけ言ってみよう)
また言うだけ言って後はお任せする気満々な華は、ノートの新しいページにタオル地の絵を描いていく。
『それはなあに?不思議な絵ね?』
『これ』
何やらリボンを何種類も並べてスタンバイしているファーナが、華のお絵描きに気付いて聞いてくるが、ループをたくさん並べた謎の絵が何なのかさっぱり解らないようだった。
手拭いの言い方がそういえば分からないと、ルナリアの手元を指してこちらの言い方を教えて貰う。
『え、これ手拭い?』
華の絵と手拭いが結び付かない様子のファーナに、ルナリアから受け取った手拭いで解説する。解説といっても身ぶり手振りで布の裏と表で指をくるくるしただけだが。
『てぬぐい。ぬの。いと、ぴよぴよ出す。たくさん』
『布から糸をぴよぴよ?出すのね?』
『ぴよぴよ…』
『ほつれが沢山ある感じかしら』
いつの間にか戻って来たシアと、ルナリアも櫛で華の髪をとかしながら謎解きに参加している。
機織りの仕種をして布を織る言い方を教えて貰い、細い棒込みで織ってループを作る絵を描いていく。
例によって華はパイル地の織り方の細かいところは知らないし、それどころか機織りをしたこともないので、華の識る限りの情報を提示して後はお任せである。
『布を織る時に態とぴよぴよ糸が出るようにするのね?』
『ねえハナさん。これはなあに?』
ファーナが華の説明をまとめてくれたが、結局何についての説明かは解らない。
ただファーナとシアは、華が欲しい物、作って貰いたい物の説明なのだと知っているので真剣に聞いている。
『これはタオルです』
『たおる?』
『てぬぐい。ふかふか!ふわっふわ!』
『ふかふかで』
『ふわっふわな』
『手拭い…』
(((いいかも…!)))
絵と想像では何の為に布にわざわざほつれを作るのかが今一つ分からなかったが、華の擬音でふかふかでふわふわな手触りを想像したファーナ達。
ルナリアはこれが何に結び付くのか分かっていなかったが、商品開発を期待するシアの視線を受けるまでもなく、是非このタオルを作ろうと華に約束するファーナだった。
華がお茶をいただきながらルナリアとファーナに飾り立てられ、シアに言葉を教えて貰っていると、階下が賑やかになってきた。
『帰って来たみたいね』
『?』
シアが先程華がノートに書いたばかりの家系図を指して華に教えてくれる。
『ファーナとアルベルト。その子供ルナリア、夫、旦那のラインハルト。その息子、グレイル。騎士、23才』
『ファーナさん、かぞく。おかえり?』
さりげなくグレイルの情報を華に教えるシアだが、華にはファーナの家族ということ以外に気になる情報は無いようだった。
『行ってみる?』
グレイルの情報にまったく興味を示さない華に、改めて名前すら知られていないのだとグレイルを憐れんだファーナが、華を出迎えに誘ってみた。
『行きます!アルベルトさん、おかえり、する!』




