87 神殿
『しゃほん?』
シアだけではなく、全員が驚いていた。
この日何度目の驚きになるか分からないが、全員がまたしても、という気分だった。
勉強するために何でもいいから本が欲しいと言う。
二日前にホーソンが自宅の書斎から引っ張り出して来た、華の学習用に良さそうな本を差し出すと、本を受け取った華は、勉強するだけではなく写本をしたら売れるかと聞いてきたのだ。
店で紙とインクを買ったと聞いた時には、ノートの紙が無くなりそうなんだなと関係者の誰もが深くは考えていなかった。
しかし、始めから写本をするために紙が必要だったということなのか。
『写本。えっと、この本の内容を写したら売れるかって事よね?』
『はい!…だめ?』
『『『駄目じゃない!』』』
もちろん、本として売るなら内容を写すだけではなく製本作業も必要となるが、それは職人に任せればいい。
ファーナとアルベルトの視線を受けるまでもなく、ホーソンは商会として買い取る心づもりだった。
『ではハナさん。綺麗に書けたら商会で買い取ります。頑張って下さいね』
『はい!ありがとう!』
そうして書き上がったものを見た商会の面々はまたしても驚く事になる。
華は写本を和綴じで製本して持ち込んだのだ。
しかも自作のなんちゃって和紙を表紙にして。
しかしこの時はまだ、持ち込み時の状態の認識の食い違いに双方気付いていなかった。
『足りない紙はどうするの?もう少し買っていく?』
写本をするというのなら、華が買った紙の枚数では足りないだろうとシアが華に聞くと、紙を半分に切ると言う。
『あと、小さい字、書く』
『あはは、そっか、そうだね!』
華達はファーナの自宅に向かうべく、北門へ続くメインストリートを歩いていた。ファーナも一緒である。
ファーナは商会に来る時はアルベルトと共に馬車を使ったが、シアが華に町を案内するのに合わせて歩いて帰ることにしたのだ。
『ほらハナ、ここよ』
『?』
大通りに面したそこは、ファーナの家には見えなかった。
「神殿…?」
(え、ファーナさん、神殿に住んでるの!?)
正面の大きな階段の先にはギリシア神殿のような石造りの立派な建物。
華は一瞬、ここがファーナの住まいなのかと驚いたが、商会のように人が出入りしているのを見て、やはり何かの施設なのかと思い直した。
『ハナ、ここは神殿だよ。神殿』
『しんでん?』
『そうよ。入りましょう』
ファーナに促されて階段を昇って行くが、実のところ、シアもなぜファーナが
華をここへ連れて来たのか知らなかった。
建物1階程もない階段を上るとすぐに神殿の入り口だが、建物に入る入り口手前には狛犬のように寝そべった四つ足の動物の石像が置いてある。
開け放たれている大きな扉から建物内部に入ると、広い講堂のように、スペースの前半分ほどにベンチ椅子が並べられていた。
「わあ…」
(なんていうか……)
「伊東忠太さん?」
華は曾祖父の小学校の同級だったという妖怪好きな建築家を思い出した。
何故ならば、その建築家の作る建物のように、いや、それより多くの妖怪のような華の知らない動物の石像があちらこちらに置かれているのだ。
よく見ると壁にも彫り込まれている。
(四神のようなのもある…。“しんでん”って、やっぱり神殿のこと?)
『ハナ、こちら。座りましょう?』
3人で前の方まで来るとファーナが椅子に座るように促した。
『ハナ、さっきのね、本を見せてくれる?』




