85 ぐつぐつ どろどろ
ゴム製品を作るに当たっては、そもそもまず原料の入手から始めなければいけない。
これまでは不思議な動きをする外国の遊具として持ち込んでいたが、持ち込んだファーナやアルベルトも、ゴムが何を原料としているのかすら知らなかった。
動物の皮のようだが継ぎ目がない、しかも弾み、そこそこの重量。
謎ではあったが特に何で出来いているか探ってはいなかった。
これも華が知っていた事で解決する。
『ゴムの木、有りますか?』
『え?ゴムは木で出来ているのかい?』
『木の…えーと…』
樹液、が分からずまた図解での説明になった。
『樹液か…』
『じゅえき、とる。硫黄、いれる』
詳しい製法は華も分からないが、ゴムボールを仕入れた先へ人を遣って、そのゴムの木を入手することになった。
近場…それこそ山脈の近いところにゴムの木が生えていればいいが、そもそもどんな木なのかが分からない以上、現地に行くのが確実に違いない。
ただし、その大陸の南の国に行くには山脈を2度越えなければ行けない。徒歩だと2ヶ月は掛かる距離だった。勿論人を遣るのに徒歩では行かせないが、時間が掛かるのには変わりがない。
華はもうすっかり商会にお任せして、待っていればいつかそのうち出来上がった物が華の元へ届くだろう、くらいに思っている。
決して間違ってはいないが、諸々手配するホーソンやアルベルトにとっては、ゴムの木の入手と同時に現地での研究するための手配、ゴムの木が栽培出来なければ恐らく商会としてではなく侯爵家もしくは大公国としての貿易になるだろうその交渉等、この先何年間も掛かる仕事が始まってしまった瞬間だった。
『ゴムは時間がかかりそうだ…。ハナさん、他に何か改良して欲しい道具や欲しい物があれば教えてくれませんか?』
(え、作ってもらえるってこと?)
書見台やらゴム製品やら何だか面倒な事ばかりお願いしているような気がしている華だったので、ホーソンの新しい物を作る、やる気満々な様子に驚いた。
どうやら手間をかけていても別段迷惑ではないようだ。
(便利な物って分かっているからかな。だったらもちろん…)
『紙、有りますか?皮、ちがう紙』
華が言った途端にホーソンが顔を輝かせて身を乗り出した。
というよりずっとホーソンの目は華のノートに釘付けだった。
売り場にも紙見本帳にも皮紙しかなかったので、まあ、植物の繊維で作る紙はないのだろうと華もなんとなく分かっていたが、一応聞いて見たのだ。
『ハナさんのノートみたいな紙ですよね。残念ながら皮ではない紙は見たことがありません』
(ですよね…)
知ってた。
紙なら藤棚さんで自分でも作れるかな、なんて紙売り場で考えていた華だったが、商会で作って売ってくれるのであればそれに越した事はない。
華の知っている紙の製法は一般的な知識程度で大して詳しいものではない。
楮や三椏だって名前は知っているがどんな木なのかは知らないのだ。
しかしゴムの様に図解でなんとか分かってもらえないだろうかと、猫車の紙の裏に木や鍋の絵を描いていく。
「えーと。木の繊維をぐつぐつ煮て取り出します。漂白ってどうするのかな…。あ、灰?洗濯物みたいに灰汁でいいのかな?でも最初から木の内側の白いところを使えば皮紙くらいには白くなる?…ぐつぐつ煮たら叩いてどろどろに溶かす…。溶ける?溶かさなくてもどろどろになればいいのかな?で、どろどろをえーと簀桁?で掬って天日干し?あ、ねばねばも入れるんだった?」




