84 黄色いもの
一見、輪に結んだだけの茶色の紐が、華の指に合わせて伸び縮みしている。
『え!?これもゴムなの?』
ファーナは驚いているが、華にとってはこれこそがゴムなので、ここでゴムがそんなに使われていないのならば是非いろいろ作って欲しいと思っていた。
華が自分では作れそうなら頑張ってみるが、自分ではまったく作れそうにないので、この大きな商会ならいろいろ研究して製品化に漕ぎ着けてくれるのではないかと期待している。
(たしか硫黄か何かを混ぜるんじゃなかったかな…)
華の知識ではその程度なので完全にお任せするしかないのだが、通じるかはともかく、火山と温泉の絵を描き鼻を押さえたりして、ゴムに硫黄を加えることを身振り手振りしてみた。
(分かったかな…硫黄自体は臭わないって聞いた気がするけど、わたしも硫黄なんて見たことないし…)
『その、イオウというのを混ぜると加工が出来る?…のかな』
『たぶん…』
ホーソンが華の隣のシアに聞くが、シアもこの日半日ずっと華と一緒にいて慣れはしたけれど、細かいことになるとまだお互い理解出来ないことも多い。
(硫黄って言ったらあとは…黄色?黄色黄色…)
華は黄色のものを探すが、自分の持ち物にもこの部屋にも黄色は見当たらない。
『ハナ、何か探しているの?』
きょろきょろしはじめた華にファーナが声を掛けるが、ファーナの髪の色は茶色。アルベルトは白髪混じりの黒で灰色、ホーソンもファーナとよく似た茶髪。隣のシアは綺麗なオレンジだ。
(そうだ)
ふと思い付いてノートを捲って表紙を見る。
そうすると、辛うじて黄色だと分かる花が描かれていたので、シアに花を指差して色の名前を聞いた。
『花?じゃなくて、黄色、かな?赤、青、白、茶色、緑、黄色…』
ノートの表紙絵の花や葉っぱ、うさぎが着ているドレスの色を指差しながらシアが色の名前を言っていくのを華が復唱する。
表紙を見せながらだとノートに書けないので、何度か復唱して覚えているうちに、華は急いでノートに書き込んだ。
『硫黄、黄色』
『あ。あれかなイオウ』
アルベルトが心当たりがあるようだった。
『火山やこのオンセン?熱い泉で臭いがして黄色いもの』
『あったわね』
アルベルトやファーナが分かったようなので華はほっとする。
『硫黄少し、まぜる』
ゴム紐を伸ばして見せる。
『たくさん?まぜる』
すでに履いてしまったいた靴底をこんこんする。
混ぜ方で弾力性が違ったはずなのでいろいろ試して便利なものを作って貰いたいと思う華だった。
(あと!防水性!)
便利なゴム製品を作って貰いたい華は、ゴムが便利なところをアピールするが、残念ながらまだまだ言葉の壁がある。
華が机の上の猫車の紙の、硫黄に関する火山等の書き込みの横に線を引き、ゴムボールが雨を弾く絵を描いたところ、ホーソンもすぐに分かったようだ。
『ゴムは水を通さないのか…』
『これは便利だ。いろいろ使えるね』
『はい!ゴム、べんり!有ると、うれしい』
分かってもらえて、作ってもらえそうな雰囲気に、華がにこにこしているので、部屋の中にいる人間もにこにこしているが、アルベルトやホーソンは、これからの根回し等の段取り等を考えて内心はにこにこと笑っていられる場合ではなかった。
このゴムの加工が成功すれば、この町や侯爵領、大公国だけでなく、帝国や大陸全土の産業や経済に影響が出るだろう。
何より、人々の生活洋式が変わる。それほどのものだという想像がつく。
『ホーソン』
『はい。いろいろと詰めましょう』
華のもたらすものによって時代が、歴史が変わるかも知れないと、この場の誰もが思ったのだった。




