83 ゴム素材
『これは…なんですか?』
華から消ゴムを渡されると、ホーソンはしげしげと眺めてひっくり返したりするが、何に使うものなのかさっぱり分からない。
(鉛筆が無いなら消ゴムって分からないよね)
素材を見て欲しかったのだが、ホーソンだけでなく、この場の誰もが消ゴムを何に使うものなのかを知りたがっている。シアを除いて。
『これは、使う。鉛筆書いた、えーと…』
消すって何て言うんだろうと、ホーソンから消ゴムを受け取って、ノートの書き損じてくちゃくちゃっと書き潰した箇所を実際に消して見せる。
今まで会話しながらノートに書いていたので、間違ってもいちいち消ゴムで消したりはしていなかった。
人前で消ゴムを使ったのは、この日、広場でシアと休憩しながら書いていたときくらいだった。
『これは…!』
『す、すごい!間違っても消せるのか!』
最早消ゴムで消せる鉛筆に驚いているのか、消ゴム自体にに驚いているのかは分からないが、華が見て欲しいのはゴム素材である。
広場で黒いゴムのボールのようなもので遊んでいる子供達がいたので、ゴム素材はあると思ったのだが、もしかして珍しいものなのだろうか?
『猫車。ここ、こう…』
華が猫車の絵に話を戻す。車輪部分の外周を被うように鉛筆でぐるっと斜線で囲み、この部分がゴムですよと示す。
『この、ケシゴム?と同じもので車輪を包むのか…』
『でもこれは手に入らないよね?』
『待って?でもこれって、ゴムに似てない?』
ファーナ達が数年前に、南の隣国の更に南の国で手に入れた素材に似ているとファーナが気付く。
今のところ、加工もなく現地で子供達が遊んでいたボールをそのまま売っているが、それを車輪に巻くか被せるかするということだろうか。
ファーナが華から消ゴムを借りてむにむにと圧して感触を確かめていると、何を思ったのか華がブーツを脱ぎ出した。
「失礼しますね?」
『ハ、ハナ?』
座ったままこはぜを外して、地下足袋を脱いだ華は、靴底を見せた。
華の地下足袋はゴム底、つまりゴム素材。
ちなみに爪先が丸いタイプなので、もんぺだがセーラー服に地下足袋でも1日くらい誰も気にしないだろうと思って履いて家を出たままこんなことになっている。
せっかく女子高生のポリシーだとか言ってクラスの皆でセーラー服を着ているのにいろいろ台無だな、とは華も思っているが、ここでは本当に誰も気にしないし、普段の靴だったら山の暮らしは今より大変だっただろう。
『まあ。靴底にゴムが張ってあるのね?』
『なるほど…。加工をすればいろいろ使えるということか…』
問題は加工の仕方であるが、それこそ商会の仕事である。
『まずはこのネコグルマの制作ですね。ハナさん、試作品を作ってお渡しするまで、少し期間をいただけますか?』
『しさくひん?』
(え~っと、また無料で作って貰っちゃうってことかな?なんか悪い…でも、出来たらお店で売れるって言うならいいのかな?)
『はい。このゴムの加工が初めてなので時間がかかるかも知れません』
『いそぎ、ちがう、です。猫車いま無い、でも大丈夫。有ると、うれしい』
『確かに小さな荷車でもあれば便利かもね』
華の住まいを思い出してアルベルトが言う。結果、猫車の試作品が出来るまで、商会の備品をレンタルすることになった。
無料のレンタルに恐縮する華だったが、いい商売になりそうだからと逆にホーソンからお礼を言われて有り難く借りることにした。
荷車があれば石竹粘土の運搬が格段に楽になる事だろう。
(そうだ)
これからゴムで製品を作るならこれも、と、華は片方のお下げから髪ゴムを外して、親指と人差し指に引っ掻けてみょんみょんする。
『これも、ゴム、つくれる、ですか?』




