81 再びローレンス商会へ
西街道で牧場見学をした華とシアは、町に戻り予定通り種苗屋で買い足しをした。
ネギやハーブ等、食べられるものを何種類かを今度は苗で3つずつ。
『それだけでいいのかい?』
綿を150買った華を覚えていた種苗屋のおじさんが聞くが、別に売る為に育てる訳ではない。
『わたし、食べるだけ』
それより華は、店の隅に立て掛けてあるスコップと箱車が気になっていた。
『これ?』
指を指してシアを見ると、心得たもので名前を教えてくれる。
『これはスコップと箱車』
書き書き。
『ハナ、欲しいの?これは売り物じゃないと思うわよ?』
華が欲しいと言うと、多分商会で買えるだろうとの事だったので、種苗屋を出てローレンス商会へ向かった。
種苗屋からローレンス商会までは数百メートル。
ローレンス商会自体が道を挟んで百メートルほどあるのだが。
その、大きな店舗の中でもシアが真っ先に案内してくれた文具の売り場に着いた途端、男の子二人が駆け寄って来て、華に深々と頭を下げたのだ。
『売り場を走らない!』
『『ごめんなさい!』』
戸惑う華の横でシアが何か叱っているが、二人が謝っているのは分かったのでノートを開く。
書き書き。
『売りバヲ…?』
『売り場。ここね。お店の中、売り場。走る、と駄目ぇー、しない。で、走らない、よ』
手で×を作ってその場で走る真似をするシアに、華はふむふむとノートに書いて行く。
『売りばを、はしらない?』
『『ごめんなさい!』』
華がノートを読み上げると再度頭を下げる二人に華も改めて戸惑う。
この二人は多分、昨日お店の掃除をしていた二人ではないだろうか。
『ごめんなさい、何?』
『あの、昨日はファーナ様、アルベルト様なんて人はいないって言っちゃって…』
『本当はいたんですけど、いなくて。知らなかったんです!』
『?』
(いた?いない?どっち?)
よく分からないが、こうして謝るということは、いたということなのだろう。
華が納得していると、見覚えのある赤い髪の店員がやって来た。
『そんなんで分かるか』
『カイさん、こんにちは』
『ぅお、はいっ、こんにちは。…よく覚えてたな…』
カイの呟きも華にはしっかり聞こえていた。
華の中でカイは塩の壺とセットで記憶されているので忘れていないのだ。
『ハナさん。こっちがパマットでこっちがテオ。新人…店に入ったばかりでファーナ様とアルベルト様のことを知らなかったんだ。いないって言って申し訳ありませんでした』
『『も、申し訳ありませんでした!』』
華は駄目元で訊ねただけなので、その後捜索がかけられていたことなど知らない。
魔獣を窓から見ていたら、たまたま偶然、町の塀を移動するロイたちを見付けられたので、帰る前に会えてすごいラッキーだったと思っている。
しかしパマットとテオは、華が店を訪ねて来たと発覚した時のカイたちの剣幕や慌てっぷりから大変なことを仕出かしてしまったと思い、一夜明けてこの日、来店があるかもしれないと聞いて、朝からずっと外を気にしていたのだ。
『ごめんなさい、いらないです。もうしわけありません、ないです。ファーナさん、会いました』
『もう会えたから謝らなくてもいいって。困るから止めろって』
『言ってないだろそんなこと』
『そんなことより、紙ってこれだけ?もっと薄くて安いの無いの?』
シアが意訳で謝罪を切り上げさせ、紙の種類がもっと無いのか聞いた。
売り場に2種類しか無いのを見て、紙紙言っていた華が、「これ違う」という顔をしていたのを見ていたのだ。
この日はシアもノートにたくさん書き込みをしたので、華の使っている帳面の紙が薄くて書きやすい上質なものだと知っている。書いたのは鉛筆でだったが、ペンで書いても引っ掛かる書きづらさは想像出来なかった。
カイが新人二人に見本帳を持って来るように言うと、パマットとテオは良い返事をして走って行く。
『『走るな!』』
持って来て貰った紙見本を見て華は困ってしまった。
(これって羊皮紙…かどうかはわからないけど全部皮紙ってやつだよね。宿帳もそうだったし、パルプ紙って無いのかな…。万年筆で書くからこれでもいいんだけど値段が…。あれ?でも写本して売る事を考えたら皮紙を使った方がいいのかな!?)
華のB5サイズのノートより大きなA4サイズかそれより少し大きいくらいの紙が1枚200リーンから2,500リーン。
(1枚で顔大のパンが20個買えちゃうのか…。えーっと、今残金が12,000くらい?1万くらい使っちゃう?あ、インクも買わなきゃ。スコップとネコも欲しいんだった)
紙見本を待っている間にインクは選んでいたので、量重視で一番安い紙の中でも薄い飴色の200リーンの紙をとりあえず30枚購入する。
その後、スコップや荷車のコーナーへ行き、完全な箱形の、しかも木箱が乗った荷車しか無いのを見た華が、箱部分と車輪部分に注文を付けたところ、商会長におもてなしを受けることとなってしまった華だった。




