78 寂しいルナリア夫人
華が泊まっていた宿から自宅に戻ったファーナは、馬車を降りるために手を貸す馭者…孫のグレイルの顔を見詰め……。
…とりあえず手を貸してくれたことにお礼を言った。
北区にあるファーナの住む家は、町代官を務める息子のラインハルトの役宅であり、棟こそ別れているが、隣接している代官所とは渡り廊下で繋がっている。
アルベルト・ファーナ夫妻も共に三世代で住んでいるそこは、半月近く前までラインハルトとその妻ルナリアだけしかいなかった。
数人の使用人はいるものの、ルナリアの実の両親は揃って半年以上も行商で戻って来ない、ただ一人の息子など数年顔も見せに来ない、夫は代官の仕事で忙しく、同じ敷地にはいるものの家でゆっくりするわけでもない。
屋敷の女主人であるルナリアは毎日大変寂しい思いをして過ごしていた。
ところが半月ほど前に一人息子が突然帰ってきた。
しかも休暇等ではなく、帝国の近衛師団を退団して本当に帰って来たのだと言う。
息子には悪いがルナリアは喜んだ。
仕事などこの町にいくらでもある。
わざわざ遠くの帝都でお勤めすることはない。嫌な思いをしたのならなおさらだ。
ずっとこの町にいればいい。
そう思ったのに、侯爵様へ事情の説明に行くと言って、翌日夫の実家がある領都モルシェッツへ夫と息子が連れだって出掛けてしまった。
報告は大事だ。息子は帝国の皇族の側近くにいたのだから、余計に何事があったのかの説明は必要だろう。
それを分かっているから気を付けて行ってきてねすぐに帰って来てねと送り出した。
(モルシェッツなんてすぐ隣だし、むしろ一緒に行けばば良かったかしら)
そう思ったが、出来るだけ早く報告しなければと慌ただしく出掛けてしまったので見送るしかなかったのだ。
それなのに。
夫はその日の内に帰ってきてくれたが、あろうことか息子を領都に置いてきてしまったのだ!
しかも数日は戻らないと言う。
夫は仕事があるから仕方なく急ぎで戻って来たのだろう。
別に一人寂しく待っているルナリアの事を考えて急いで帰って来たわけではない。
ここに珍しくも夫婦喧嘩が勃発した。
喧嘩と言ってもルナリアが一方的にラインハルトに不満をぶちまけて拗ねて口を利かなくなっただけなのだが。
その夫婦喧嘩も1日ほどで終息した。
ルナリアの両親が半年以上振りに帰って来たのだ。
帰って来ても両親は何やら忙しくしていたが、ルナリアが甘えてもちゃんと構ってくれ、ラインハルトと仲直りをさせてくれた。
『帰って来る時にね、とっても可愛い女の子と知り合ったのよ。きっとそのうち連れて来るから、ルナリアもよろしくね』
母から言われて、女の子も欲しかったルナリアはとても楽しみにしていた。
こっそり客間のひとつを可愛くしたり、可愛い色の布を探したり。
そして昨夜、町の近くに魔獣が出たと騒ぎになり、ずうっっと帰ってこなかった息子が討伐に参加したという話を聞いたと思ったら、ファーナにとってはそれはついでの話だったようで、本題がーー。
『明日、お客様が来るのよ。可愛い女の子!』




