74 お誘い
結局、グレイルが本気で華に惚れているのであれば、勝手に花を贈るなり貢ぐなりデートに誘うなりすればいいということになった。
しかし華に関して一切の信用を無くしたグレイルが今後華と二人きりで会う事は罷り成らんとなり、グレイル本人だけでなくアランやナッシュにも、くれぐれもと言って護衛チームは町に戻って行った。
『は~。とうとうお前にも春が来たか~』
バルミラの残骸を埋める穴を兵士たちと掘りつつ、アランがしみじみと言う。
『春…』
先程から事あるごとにぽや~っとしがちなグレイルを、周囲の兵士も不気味なものを見るように遠巻きにしていたが、アランの言葉を聞いて目を輝かせた兵士もいるようだ。
グレイルが町代官の息子だということに不満を抱く兵士がほとんどいないように見えるのは、着任前だが実際にこうして魔獣討伐の指揮を執ったお陰だろう。バルミラさまさまである。
(御令嬢にコナかけられても首かしげてたこいつが一目惚れね…しかもふらふらと後を付いてったって…)
聞けば幼女にも見える幼い外見の少女だと言う。
アランが知る限り、グレイルが女性にぽ~っとなっているところを見たのは、帝国で聖王国のお姫様を賓客として迎えた時だけだが、姫君は何処から見ても大人の女性だった。相棒が不名誉な罪状で捕まるような事がなくて良かったと心底思っていた。
それにしても、とアランは思う。
アレックスはその華という少女を、商会の最重要案件だと言っていた。
(そのわりには商会長ではなく、ファーナ様に報告するって言ってたな…)
グレイルを脅すためにわざとそんな大袈裟な言い方をしたのか、それとも行商隊の裏の目的に関する事にその少女が関わっているのかもしれない。
ちゃんと聞いたことはないが、行商隊が各地各国へ赴く際に、ファーナはともかくアルベルトは侯爵家か大公国の意を受けて動いているのではないかとアランは思っている。
それは外交に関する根回しかもしれないし、ただ単に行商ついでに各地の情勢を探っているのかもしれない。
何にしてもアランが行商に連れて行って貰えたのは小さな頃の一度だけ。その後もしかして…と思っただけなので本当にそうなのか、今現在もそうなのかは分からない。本当に密命があってもおそらくグレイルは知らされていないだろう。
魔獣の素材がどうのと言っていたから、本当に商会の行商関係の重要人物というだけなら、ファーナもグレイルが頼み込めば少女に会う事くらいは許してくれると思う。しかし侯爵家や大公国の政事に関わる人物だと言うのなら今後どうなるのか分からない。
とにかく情報が少なすぎる。
当のグレイルがまず数時間前に会っただけでろくに会話もしていないと言うのだから。
(せめてそのハナって子の立ち位置を聞いておかないとな…)
時折少女の名を呟く壊れかけのグレイルを見ていると、何とか手助けしてやらないとと思ってしまうアランだった。
翌朝華は雨の音で目を覚ました。
(昨日の火達磨作戦の上昇気流で雨呼んじゃった?…って、そんなわけないか)
雨は降っているが、外は明るく雨もそんなに強くない。
のんびり出ればそのうち止むだろうと、もう一泊する気でいる華は身体を伸ばしながら大きな欠伸をした。
「今日はお買い物~」
槍が買えて、薙刀の注文も鱗でできてしまった華は、昨日は眺めるだけで終わってしまった西区の市場で一日買い物を楽しむ予定だった。
(シアさんが案内してくれるって言ってたし!)
華の言葉が違うことを承知しているシアに案内してもらえれば安心だし、物の名前を教えて貰ったりして華の語彙も増えることだろう。
昨夜も様子を見に来たアイシャに「火矢凄かった!」と、芸能挺身隊のように吟詠剣詩舞の弓を射るフリをして『かっこいい』に相当するであろう言葉を教えて貰えた。
復習をばっちりしているお陰で、山での一人暮らしのわりには順調に現地語をマスターしている華だった。
1階でライ麦の入ったパンと昨夜の魔獣の肉の入ったシチューの朝食を食べて、もう一泊したいとアイシャに話していると、シアがやって来た。ファーナも一緒に。
『ハナ、今日はぜひ家に泊まっていってちょうだい!』




