73 無自覚→自覚
『グレイル。あの子、ハナだが、現在商会の最重要案件になっている。分かるか?ファーナ様に報告する必要があるんだ。もし他に何か仕出かしてるのならここで今のうちに言っておけ』
『最重要案件……?』
アレックスの言葉に地面に座り込んだままのグレイルは、武具店の夫婦の会話を思い出した。
『それって、落ち化蛇の鱗や岩熊の仕入れの事か?』
『ん?ああ、そういえばラジネの店にも卸したな。いや、別件だ。魔獣の素材はついでというか…』
『ついで…』
『どちらにしてもファーナ様や俺達が当分彼女に関する事で掛り切りになるだろうし、お前も町の守備に付くならこれ以上仕出かすこともないだろう。報告なしとはいかないが、なるべく大事にならないように持っていってやるから、グレイル、お前はもうハナには近付くな』
『断る!!』
『何でだよ!?お前が捕まってない今ならハナって子も後を付けられた事を知らずに無駄に怖がらせる事もないんだぞ?俺たちがちょっと気持ち悪い話を聞かされたってだけで終わるのに!』
『何でもなにももう会うなって事だろう!?イヤだ!!』
我儘な子供のように駄々を捏ねるグレイルを見下ろす面々は、何がグレイルをそうさせるのかと首を捻るばかりである。
ただ町で見掛けた可愛い子の後を付けたってだけではないのか…?
『え、何?そんなにその子が好きなのか?』
『好き…?』
『そうよ。何でそんなにハナに拘るの?ろくに話もしてないのに』
アランだけではなく、全員が疑問に思った。
特に商会の護衛チームはハナがこちらの言葉を話せない事を知っている。
店で話が盛り上がってとか趣味が合ってとかでは絶対にあり得ないと。
『した!話した!』
『挨拶して使えない男って言われただけじゃない』
『槍の話だ!』
華を見つめるのに全神経を使っていて会話どころか名前までうろ覚えだったグレイルは、実は華が片言だったことも気が付いていない。
そして華とラジネの会話に自分も入っていたと思っているのだ。
『…もしかして一目惚れってやつ?』
マールが思い切って聞いてみるが、何故かグレイルが驚いている。
その場の全員が驚くくらい驚いている。
(何でお前が驚いてるんだ)
『一目惚れ…?』
『だってちょっと店で見掛けただけの子を好きになっちゃったって、それって一目惚れしたってことだろ?』
後を付けるくらいに。
『好き?一目惚れ?』
『え?違うの?好きなんじゃ』
『好きだ!!』
『怖いっ!!』
突然立ち上り町に、宿の二階に向けて叫び出すグレイルに恐怖を覚えてシアがエドワードの陰に隠れる。エドワードを盾にしながらもファイティングポーズで攻撃姿勢は忘れない。
『そうか!そうだ!そうだったのか!好きだ!!好き『うっせ黙れ馬鹿!』ぐふっ』
『無自覚だったのか…』
『え、そんなことある?』
自分が華に惚れていることにようやく気が付いて一気に興奮状態になったグレイルの口を塞ぎつつ脇腹を殴って黙らせたアランだったが、いつにない相棒の様子に困惑していた。
ロイはグレイルが華に何かしようと後を付けた訳ではなく、自分の気持ちに無自覚なまま|後を付いていってしまった《・・・・・・・・・・・・》のではないかと思ったのだが、マールにはそれが信じられない。
しかしグレイルが華と出会ったのは僅か数時間前の事らしい。今晩や明日以降に無自覚なまま華に付きまとったりする前に自覚させられたのは良かったのではないかと思うロイだった。




