69 バルミラ討伐作戦
ルーシェッツの町は山脈に近い事もあり、時折魔獣に襲われることがある。
しかし兵士長によると、これほど大型の魔獣が町の近くに現れた事はないという。しかも3頭。
『どれどれ?……おぉぅ』
門扉の横にある通用扉の小窓から監視していた兵士に代わってもらい、魔獣の姿を確認したアランがおかしな呻き声を漏らす。
『バルミラじゃん。3頭もいるし』
『多分、魔蜂か鉄羽虫かにまとわり付かれているんだろうが…』
グレイルが兵士長を見ると、兵士長・ナッシュは頷いた。
『魔蜂だな。南東の森でいくつか巣の目撃情報がある』
『火矢の準備する?』
塀の上からの声にグレイルは首を振る。
『いや、それは門兵で班を作ろう。3頭ともやられているなら結構な数がいるはずだ。ナッシュ兵士長、火矢班の振り分け頼む』
『任せろ。丁度いいから今から言葉を改めるぞ。騎士様?』
通りの向こうから兵たちが駆けてくるのを見ながらナッシュが言うと、アランが嫌そうな顔をした。
『えええ~』
『お前は元から男爵家だろうが』
『三男なんて平民と一緒だろ。…まあ、仕方ないか。士爵受けちゃったし』
グレイルは祖父が侯爵家の生まれではあるが孫世代は平民同然だし、アランは男爵家の三男で、双子の兄のどちらかが家を継げば家を出る予定だった。しかしこの度侯爵家の騎士団に入り、町兵の指揮官になるに当たって二人揃って騎士爵を受けていた。
『帝国の近衛師団で活躍した騎士様方だ。当然だな!』
『『ぐ……』』
経歴としてはその通りだが、活躍したかと言われると本人達にはどうにもコメントしづらいものがある。
『実際問題、うちのやつらでお貴族様や騎士様への対応が出来る奴なんて殆んどいないからな。躾のいい機会だ』
『ああ…そういう…』
グレイルは集まり始めた兵達に命じて門の内側に篝火の用意をさせた。
間もなく日が暮れるというのもあるが、火矢の準備でもある。
『なんで寄せさせてるんだ?せっかく2台有るのに』
東門にある篝火は2台。グレイルはそれを東門の左右に置かず、片側…南側に並べて2台作らせていた。
『煙たいだろうが』
『はあ?』
北側には宿屋がある。
グレイルが2階の窓辺にいるであろう少女が煙たく無いようにしている事など、アランを含めて誰一人想像も出来ないのは当然の事だった。
篝火を並べて設置させられた兵士の中には、討伐作戦の一環で深い意味があっての指示だと思うものまでいたのだ。
グレイルたちが商会の護衛チームと打ち合わせをしている間に篝火の設置が終わり、火を入れさせた頃には召集をかけた兵士達が集合していた。
キレイに、とはいかないが一応整列出来ている様子を見て、グレイルとアランはここの町兵の練度を計りつつ作戦の説明をする。
『これより指揮を執るグレイルと補佐のアランだ。
聞いての通り、東南の森付近で大型魔獣・バルミラが3頭確認されている。
既に眼の色が黒から興奮状態を示す赤に変わっている。この町の塀は大型魔獣の突進に耐えられるようには出来ていない。更に興奮状態が3頭ともなれば町の壊滅も有り得る。町に接近する前に殲滅するぞ!』
『現在暴れているのは、魔蜂にまとわり付かれているためだと思われる。この魔蜂を排除しながらの討伐になる。魔蜂の排除には火矢を使う。バルミラの皮膚は硬いので矢は大して効かないが毛は燃える。火矢を扱う者は魔蜂ではなくバルミラを燃やすつもりで射ればよい』
日が沈めば魔蜂は大人しくなるが、興奮状態のバルミラが残ることになる。どのみち魔蜂も危険なので町へ近付けることは出来ない。
その他段取りや商会の護衛チームが討伐に参加する事などを説明し、班分けや準備の後、作戦を開始する事になった。
『意外と弓を扱える奴が少ないな…』
『まあ、今回は的がでかいし前に飛ばせられて後は飛距離さえ出ればなんとかなるだろう』
『終わったら諸々訓練だな!』
帝国の兵士達と比べる訳では無いが、グレイルとアランから見てこの町の兵たちの練度は町兵の基準に足りていない。特に紛争や襲撃があるわけでは無いが、指揮官として配属されたからにはこのままにはしておけない。
この討伐作戦で今後の課題がどこまで積み上がるのか。着任早々、それを知るいい機会でもあった。
『門を開けるぞ!』
『これより大型魔獣・バルミラの討伐を開始する!』




