63 可愛い女の子
『よー、カイお前見習い取れなかったんだって?』
『取れたよ‼』
ローレンス商会ではカイが新人二人を張り付けて在庫のチェックをしていた。
やって来るなり失礼な事を言うマールに反射で返す。
『ぶっ。奥様や旦那様が心配してたぞ。もっと見ておけばよかったーって』
『もう取れたっつーの!切り替え出来なかっただけだ。マールこそ、町に戻ったら“奥様旦那様”じゃないだろ』
『おっと、そうだった』
ローレンス商会で旦那様と言うと、商会長のホーソンと、奥様ならその妻ナナリーのことを指す。旅の間は通じたが、戻ってきたからには改める必要がある。
『今日もお二人の用事か?長旅だったし少しは休めばいいのにな』
『無理無理。あのお二人っつーよりファーナ様が止まんねー。商会長と打合せしたらアルベルト様もまたモルシェッツに報告しに行ったりもするみたいだし、俺らも当分はあの子の件でバタバタしそうだ』
『ハナか~。見てる分には可愛いけどさあ…』
言葉のこともあるが、貴族っぽい年上の少女に対してどう振る舞えばいいのか分からないカイである。
『あのぉ~』
『ああ、わり。マール、こっち、新人のパマットとテオ。入って一月くらいだっけ?』
『おう。マールだ。よろしくな!てかパマットは見たことあるな。確か縫製班の姉ちゃんと一緒に…』
『あ、それ僕です。よろしくお願いします』
『よろしくお願いします。あの、マールさんって行商組の人ですよね』
『そうそう。俺もカイも見かけなかったろ』
『あの、さっきファーナ様って…』
『ああ、行商隊の隊長さんだな。前商会長のお姉さん…ホーソン商会長の叔母に当たる人だ』
『お前たち…ファーナ様がどうかしたのか』
新人二人、顔を見合わせて何か言いたげにしている。
それがカイには、何かマズイ事をやらかして言い出せないでいるように見えて、嫌な予感がした。
『あの、今朝開店前に女の子が来て…』
『ああ、可愛い女の子が来たって言ってたな。ん…?』
(可愛い女の子?)
嫌な予感がする。カイだけではなく、端で聞いているマールにも新人二人の様子から、何やらよろしくない事があったようだとわかる。
『マール、なにやってんの。行くよー』
『姉ちゃんちょいまち』
『その子が、ファーナさんとアルベルトさんいますかって…』
『僕たち、そういう人はここにはいませんって言っちゃって…』
今度はカイとマールが顔を見合わせる番だった。
『マール、あの子が来る予定なんて…』
『『あるわけないし!』』
話を聞いていなかったはずのシアにも分かった。
“ファーナさん”“アルベルトさん”なんて二人を呼ぶ“あの子”なんて一人しかいない。
『ね、その子この店に来たの!?いつ?片言じゃなかった?』
『は、はい!片言でここはローレンス商会ですかって』
突然やって来たマールの姉らしき女性に詰め寄られて、新人の少年二人は必死に今朝の会話を思い出す。
『アルベルトさん、ファーナさんいますかって』
『もっと何か…黒髪だった?』
『はいっ。2つに三つ編みしてて…『あっ!』』
『え、何!?』
『『“センダハナです”って言ってました‼』』
『『『それを先に言え‼』』』
丁度その頃、とりあえずの槍を購入できてほくほくの華が南門からの帰り道、ローレンス商会前の角を歩いていた。
(何ヵ月か掛かるって話だけど、ひとまずこの槍があれば熊さんとも戦えるよね!次来るときはファーナさんにお願いして馬車に乗せてもらえないかな)
大きなローレンス商会の店構えを見ながら宿への道をてくてく歩く。
(もう夕方だし、明日は市場で買い物をしてもう一泊してから夜明け前に出よう。山道に入るときに夜が明けていれば明るいうちに藤棚さんに帰れるよね)
薙刀の制作費として、落ち化蛇の鱗を渡してきた。始めは持ってきた500枚全部渡そうとしたのだが、前金として100枚でいいと言われたのだ。
作業場で二日前に手放した蛇骨を見たときには思わず指を指してしまった。
よく考えたら先に買い取って貰った鱗だって、その売り先は武具店なのだ。華の落ち化蛇の手袋を見た店主が華を落ち化蛇の売り主だと思ったのも当然だ。落ち化蛇の素材が出るのは数年に一度、あるかないかの事らしいから。
(武具店のおじさんと仲良くなったし、“これください“を初めて使って一番の目的だったちゃんとした槍も買えた。槍の柄を切って貰えたし、おばちゃんにオマケしてもらえたし!薙刀も作って貰えそうだし。ふふ~今日は晩御飯何かな~)
ご機嫌で通りの店を見ながら歩く華は、まさか自分がつけられているなどとは考えもしていなかった。




