62 新しい槍
『無理に決まってるだろう』
中庭に面した作業場のような所からやって来た初老の男に声を掛けられた華は、ペコリとお辞儀をした。
『こんにちは』
『ああ、こんにちは。いらっしゃい、槍が欲しいのか。見せてごらん』
男が華の持つオプション付き木槍に手を向けたので、華は自作の槍先カバーの紐をしゅるりとほどいた。
『ほう…』
紐を引けば半袋状のカバーはさっと取れるので、有事の際にも素早く構えることが出来る。
華はカバーを外したオプション部分を男に見せて、身ぶり手振りで説明した。
「大きな猫さんに折られてしまいました。この槍じゃなくてお店の中の槍が欲しいです」
分かったのか分かってないのか、うんうん頷いて聞いていた男に華は店の中に付いて来てもらう。中庭に案内してきた男も一緒に店の中に戻る。
応対してくれた男には悪いが、華の中ではこの店主らしき男の方が話を聞いてくれそうなので、一生懸命欲しい槍を説明する。
といっても、店内で目星を付けた槍を持って、柄の部分に手刀を当てて、ここで切って貰えませんかとお願いしただけだったが。
それでもふんふん頷いて聞いてくれる恐らく店主の男に華の期待が膨らんだ。
(切って貰えそう!2千リーンって書いてあるから工賃かかっても余裕で買える!…っていうか、薙刀作って貰えないか訊いてみる?)
華はカバンからノートを出して、昨夜描いた薙刀のページを店主の男に見せた。
『これ“薙刀”作る、できる?』
店主の男はノートを見て、これまたふんふん頷きながら独り言と、華にいくつか質問するので華の膨らんだ期待が更に大きく膨らんでいく。
『“ナギナタ”ね…。片刃で反りが少し入って…これは?』
『これは“樋”です』
『刀身が軽くなる』の言い方が分からず上に向けた掌を上下してみたが、店主の男はこれも直ぐに理解したようだった。
(職人さんだから?凄い!)
『確かに軽くはなるだろうが…。耐久性を考えると…』
(わたしも何言ってるのか何となくわかるー!樋についてなら強さのことだよね。剣とは違うって言っておかないと…)
槍の刃の部分を指して、何度も折って打つ動作をして鉄を鍛える事を伝えると、今までふんふん言っていた店主の男は黙ってしまった。
『………』
(だめ、かな…?)
店主の男に通じていないのかもしれないが、何やら考え込んでいる様子は技術的なことか手間のことか、はたまた費用の事か。
費用に関して華は、持ってきた落ち化蛇の鱗を直接この店に売ればいいのではないかと思っている。まさかファーナに買い取って貰った値を下回る事はないだろう。
(“華兎”見せてみようか…。こんな刃が欲しいって)
華はカバンから守り刀を取り出した。
漆の鞘から刀身を見せて、剣の鉄とは違うでしょ?と。そしてその抜身のまま槍に当てて「こんな感じ」とやってみた。
『できる?』
『ほら、出来たよ』
店主の男・ラジネと華のやり取りを見ているグレイルに、グローブを縫い終えたリーシャが声をかけるが、聞こえていないようだった。
『何ぼけっと突っ立ってるんだい、しっかりおし!』
バシッと背を叩かれて我に返り、礼を言ってグローブを受け取ったグレイルだが、華が気になって仕方がない。
『リーシャ、あれ、あの子のナイフ?凄くないか』
『なんだいあれは?宝剣のようじゃないか。父ちゃんの目が釘付けだよ…。なに?あれを作れって?と言うかどこの言葉だい』
グローブを縫っている間、この小さなお客が気になって仕方がなかったリーシャだったが、あんな、一目でその辺のナイフとは別格だと判るものを他の客に見られたら面倒なことになりそうな気がして声を掛ける。
『父ちゃん、込み入った相談になるなら奥でやりなよ』
『!ああ。そうだな、お嬢さん…』
ラジネが華を店の奥に促そうとすると、華は刀を鞘に納めて槍を取り、ラジネに大銀貨2枚を差し出した。
『これください』
『…はいよ、たしかに。切るって言ってたかい?工賃はオマケしてあげるよ』
華が刀身を仕舞ってしまった事にショックを受けて固まってしまったラジネに代わり、リーシャが2千リーンを受け取った。
『オマケ!ありがとう‼』
何を言われたのかわからなくても、ついついオマケの言葉に反応してしまう華だった。




