5 水場に到着
だんだん近づいてくる水音に期待を膨らませながら、でも慎重に足を進めていく。印も忘れずに付け、蔦の回収もしっかりする。
今のところ、採集できた蔦は二種類。
木の肌みたいだけどとても細い蔦と、青々としていて縄のように太い蔦。
ひとまず葉は落とさず、進行方向の手の届く範囲はすべて採っていく。
もう華の頭の中では、この蔦でやりたいことがいっぱいだった。
藤棚さんを過ごしやすく調えたり、これから山の幸っぽいものに出会ったときのために風呂敷っぽい物を作って採集用の袋にしたり、対野性動物用に罠も作って、いくつか束ねて編んで丈夫な縄を作ったら、頂上を目指すのも下山するのも格段に安全になるだろう。
採れるだけいくらでも欲しいし、なんなら今採ったばかりのところの蔦に対して
(早くまた伸びてこないかなあ)
なんて思っていたりしていた。
そうして幾らも進まない内に、木々がひらけてきたその先に見えてきたものに華は驚喜した。
「滝だー!」
大喜びで、しかし慎重にを心掛けて進んで行く。
蔦回収、印付け。
滝までもうすぐ、というところまで進むと、1メートル足らずだが急な段差がある。
華はその段差に気付くと、その場でいそいそと蔦で縄を作り始めた。
縄といっても華は縄の作り方など知らないので、太い方の蔦を三つ編みしているだけだが、編んで足してを繰り返し、手元の蔦を使いきったら段差の端にある樹の幹に渡して結び、残りを段差の下に垂らしてからようやく段差を降りた。
1メートル足らずなので、足場を探して2、3歩で降りられる。
縄は登るとき、拠点側に戻るとき用に垂らしておいたのだ。
そうしてようやく滝の側まで来たのだが、高さは3メートル無いくらい。
華はちょうど滝壺のようになっているところの脇に出て来たのだが、少しずれていたら滝の上側に出ていたのかもしれない。
滝はそのまま川となって山を下りて行っているが、少し先の方で大きく右に曲がっている。
見えているところの周辺には大小の尖ってゴツゴツした石がごろごろしていて、さらに滝の、川を渡った向こう側には細い竹が物凄い密集して生えている。
華はもう大喜びだった。
お水は絶対必要だったし、武器にできそうな石もあって、細い竹は拠点をお家に仕立てるのに使える。というか使う。刈る。たくさん。
そして、拠点からこの滝までの近さ!
まっすぐ向かえば数分で水場があるとか、なんだろうこの幸運。天狗さんの仕業だろうか。子供好きだって話だし。
実のところ華は17歳なので、子供好きな天狗がいたとしても華が子供として認識されるかどうかは謎である。
そして、華のカバンの中には出先で空襲に遭ったときのための避難グッズはいろいろ入っていても、それは一時避難した防空壕等で使う事を想定したの物で、華が実際にサバイバルらしき事をしたことは生まれて此の方1度もない。
なので、この滝の川の水が飲めない水なのかもしれないなどとは思い付きもしないのだった。