51 贅沢
アルベルトは、ファーナの問い掛ける視線に『あとでね』と、白詰草の小さな花束を渡した。
『お土産だよ』
『ありがとう。懐かしいわね~』
普段乾燥させた商品の詰め物を見ていても何も思わないのに、瑞瑞しい花が主体の白詰草の花束を見たとたん、幼い頃にアルベルトとふたりで遊んだことを思い出すのだから不思議なものだ。
そして華と仲良くお花を摘んで楽しんだであろうアルベルトを羨ましがって見ると、アルベルトは慌てて華から貰ったお土産を渡した。
『こっちは何かしら』
干し柿のように連なった干し蛇肉の方は、さすがにファーナは見ても何の肉か判らないらしく、落ち化蛇の肉だと言うと驚きつつも華にお礼を言うのだった。
次の約束は10日後、護衛チームの誰かが直接藤棚さんまで配達してくれる事になった。
この日華が購入した物は、布と糸の追加やファーナが選んだ服を数着、前回は商品が無かったがお高いと聞いていた胡椒などの香辛料、銅貨1枚だと言っていた顔大のパンと小麦粉1袋、包丁やフライパン等の調理器具。夜針仕事などをしている時にあればいいなと思っていたランプを2つとランプ用のオイル、それとは別に調理用の油を瓶ごと。前回華が大喜びした種も今回はちゃんと購入したし、ちゃんとしたロープも持ってきて貰った。
半月前に比べたら考えられないほどの充実ぶりではあるものの、欲しいものは無いかと訊かれたらまだまだある。
「鋸と、釘と、ヤスリ、錐。ニスは…う~ん、何て言えばいいのかな…」
華がノートに描く絵を見て、藤棚さんを直接見たアルベルトは納得したが、納得出来ないこともあった。なぜ自分で作ろうとするのか。
『ハナ、板で棚とか机とかを作りたいんだよね?どんなのがいいのか教えてくれれば棚や机を持ってくるよ?』
今日のように鉄製品や油の入った瓶が運べるなら、あの小さな藤棚さんに入る程度の机だって運べるはずだ。
自分で作らずに職人さんに任せなさいというアルベルトに、華は嬉々として文机と土間用竹間用の棚、そしてせっかくプロに作って貰うんだからと書見台までお願いした。
ノートに詳しく絵を描いていく華に、文机の脚が低いのは、華が家の中で直接座っていたので解るのだが、書見台の用途が解らないアルベルトとファーナが質問していく。
『本を読む時に使うのね?え、針仕事しながら読むの!?ハナはすごいのね~!』
『成る程、高さの調節が出来るようにしたいんだね。で、ここに本の抑え…』
詳細を話しつつ、華が描いた絵にアルベルトが書き込みを入れていく。
それを見ながら華は少し贅沢し過ぎるかと不安になってきた。
費用面でもだが何より頭を離れないあの標語。
“欲しがりません、勝つまでは”
華は困らなかったが、普通のお家の子は食べるものだけじゃなくて、鉛筆や消しゴムにも困っていたと聞く。
華はコレクションしているが、小さくなった鉛筆も、戦争が始まってからは捨てずに近所の子供にあげているクラスメイトもいた。
『ハナ?』
様子がおかしい華にファーナが声をかけるが、華はなんでもないとかぶりを振って、お予算がどのくらいになりそうかを尋ねた。
(倹約は美徳…忘れないでいれば大丈夫。必要な物は望んでもいいけど無駄に豪華なものは望まないでいよう。藤棚さんに住むのに豪華なものなんて要らないしね!)
『それなんだけどね、この簡単に移動できて高さも調節できる“しょけんだい”もお店で売らせてもらってもいいかな?華には試作品を持ってくるからお金は要らないし、むしろ“しょけんだい”の情報料が出せるんだけど…』
“タケフミ”と同じくお金は要らないと拒否されるかと思ったが、今度はあっさりうなずいた華にアルベルトは拍子抜けした。
華にとっては試作品なら喜んで貰うし、今回は竹踏みと違ってがっつりアイデアを出しているので、その情報料というのなら抵抗なく受け取れるというものだった。
ということを身振り手振りで伝えると、アルベルトもファーナも納得の表情で何度もうなづく。
『そうよね。そうよね!何もしてないのにお金なんて貰えないわよね。ハナは偉いわね~』
華の考え方の一端が見えたような気がしたアルベルトとファーナだった。




