4 周辺の探索その1
何故か華と一緒にこの山の中にやって来た藤棚さんだが、藤棚のみである。
藤は元々の鉄の支柱を供出した際に切られてしまったのだが、昨年ひこばえが出ているのを見つけて、教師とともに華たち生徒何人かで新たに設置したものだった。
木の支柱に竹を格子に組んだ天井を載せていて、その高さは華が手を伸ばして指先が触れるくらい。
床面積は三畳ほどだろうか。
拠点とするには充分だと思えた。
ここをある程度住めるようにこれから調える、その素材を手に入れるためにもこれから周辺の探索をするのだが。
藤棚が木々に挟まったこの位置から下を見ても麓等は見えない。
かといって上を見ても頂上すら見えないのだが。
「山頂を目指すか、下山を試みるか…」
迷った結果、華は横方向を探索することにしたのだった。
拠点から山頂を向いて右手側を、迷わないようになるべく真っ直ぐに進んでいく。
その際、木々に小刀で横に印をつけておく。鉛筆を削るために持ち歩いている、彫刻刀のような小さな物だがいま現在これが大変役に立っている。
カバンの中にはもう一振り、大事な守り刀が入っているが、それは印付けなどで使うわけにはいかない。
「うぅ…。ごめんなさい」
アニミズム日本人の華としては、樹に傷をつける事はためらわれるのだが、拠点に戻れなくなるのは困るのだ。
謝罪と感謝の気持ちを込めて印を刻みながらゆっくり進んでいく。
その際樹に絡んでいる蔦を切り取って腕に掛けていく。
ロープのかわりになりそうだと張り切ってたくさん採っていたのだが、だんだん腕が重たくなってくる。よく考えたらまだ出発したばかりだし、帰りもここを通る予定…。ということである程度採集しては印をつけた樹の下に置いて行くことにしたのだった。
横に進んで行くが、時に斜面が急なところもあり、足を踏み外さないように慎重に進みながらしばらくすると、華の耳に水音が聞こえてきた。