42 天使と孫
『そうですね。彼女ははじめ、言葉が違う事に驚いていた…というより不思議がっていたように思います。知らない言葉に出会ったかのように俺の一言めの“こんにちは”を帳面に書いて…』
山の中で見るには違和感しかない美しい礼、その姿勢…。
いつからあそこに住んでいるのかは知らないが、大陸の外からあそこに辿り着くにはどう見積もっても徒歩で1月以上はかかる。その間一度も大陸の言語に触れないなんて事は考えられない。
それこそ、空からやって来たとしかーーー。
『……』
『やっぱり天使なのよ!』
ロイの述べる見解に黙りこんでしまったホーソン逹だが、ファーナの発言に“そうかもしれない”なんて思いかけ、はたと気付く。
『え、ちょっと待ってください。叔母上、そういう意味だったんですか⁉』
『ただ可愛くて“天使”なんて言い出したのかと』
『可愛いわよ~。ハナ。町で(いっしょに)暮らさないかしら』
『じゃあ、もっと仲良くならないとね』
『叔父上…』
妻といっしょになって少女を懐柔する気満々な叔父の様子に、ホーソンは少々不安になってくる。
『わかっているよ、ホーソン。明日にでも侯爵家へは連絡しておこう』
ただね、とアルベルトは言う。
『5日後、本人に聞いた方が早いんじゃないかな。ハナが我々を避ける様子は見られなかった…なかったよね?』
『はいはい』
『ぶぶっ。…警戒してましたよ?ハナ。なんかサービスし過ぎなんじゃないかって』
『ロイ~』
『してないわよ!過剰なサービスなんて!種だって数が揃ってない余ってたのをオマケであげただけじゃない。…まあ、全種類渡しちゃったけど』
『オマケの種が一番喜んでましたね』
『可愛いかったわねえ。食料品も何か残しておけば良かったわ~』
まるで初孫を可愛がる祖母のようだと思ったホーソンは、大事なことを伝えていないことに気が付いた。
彼らの歴としたただひとりの孫の事だった。
『御二人にお知らせしなければならないことがありました。数日前にグレイルが戻ってきました』
『まあ、何年ぶりかしら』
孫が帰ってきたと聞いて嬉しくないわけはないが、とっくに20歳を越えている大人の男に可愛い可愛いはさすがにしない。
『それがどうも休暇などではなく…帝都で何かあったようで』
ホーソンは言いにくそうに言う。
『詳しくは聞いていませんが、昨日からアランと一緒に侯爵家へ事情を説明に行っているはずです』
『アランもか。そうだよな』
アランの叔父であるアレックスも、甥が帰ってきた事に驚くが、本人かアランの父親である兄に詳しく聞くことにする。むしろ、グレイル独りで戻って来ていたらそちらの方が心配しただろう。2人で一緒に帰ってきたのであれば大丈夫だろうと、根拠のない安心をするのだった。




