3 先ずは…
未だに藤棚に抱き着いたままで改めて周囲を見まわしてみる。
見るが、斜面に大小の木々が生えている。以上である。
まるで頭が動いていない事にすら自覚できていないままにただきょろきょろと周囲を見回していると、そのうちに山の下の方から、時折ゆるく風が吹いてくるのに気がついた。
現地では先ず何をするのだったか。現着後は…。
「…先ず、周辺の探索、安全確認、それと、拠点の構築…」
士官になるべく勉強していた兄や従兄弟たちが得意気に話していたのを思い出す。
(そういえば、今は何時ごろなんだろう)
この藤棚さんを拠点にするのは当然として、この山の中で過ごすことを考えるのならば、夜が来る前に出来るだけの安全を確保しなければならない。
この山の夜の気温がどれだけ下がるのかは分からないが、薪になる木の枝はたくさん集めておかなければ。幸い辺り一面ふかふかの枯れ葉の絨毯が厚く敷き詰められている。もし枯れ枝が見つからなくても燃料には当分困ることはないだろう。
脳の回転が徐々に戻って来るに従って身体の硬直もほどけてくる。
身体が固まってしまっていたことにすら華は気付いていなかったのだ。
周りを見渡していたつもりでその実、眼球しか動いていなかったことにもようやく気付いて内心で苦笑がもれる。
「ヨシ!
では先ず周辺の探索をしつつ安全確認と拠点を構築するための素材の収集を開始
します」
(空?)元気を出すために声を出す。こうしていればきっと、臆病な獣も寄って来ないだろう。…臆病でない獣については今は考えない。いや、武器になりそうな棒とか石とか、罠に使えそうななにか素材も探そう。
行動前にと、ふと思いついた事を確認してみる。
「点呼!…ハイ!」
やはりここには華しかいないようだ。知ってた。
「持ち物!…カバン!以上!……あっ」
カバンの中身に思いを巡らせ、同時に覚えている中身いろいろの中でも、外ぽっけに突っ込んだ防空頭巾の存在を思い出して内心頭をかかえた。
家を出るときに被るべきだったのに被り忘れていたのだ。そして、空襲にあった。
「意味ないし…」
今さら落ち込んでも仕方がない。
気を取り直して周辺探索を始める華だった。