38 買取り成立!
『ハナ。これは買い取るから、そのお金でここでお買い物してみようか』
華が危険な山に住んでいる事を心配した妻による拉致犯罪が実行されそうな雰囲気を払拭するかのように、アルベルトが硬貨の入った袋を華に差し出す。
ファーナが袋の中の硬貨を示しながら説明していくのを華はノートに書いていった。
『額が小さいのから…。これが鉄貨で1リーン。この銅貨は10リーン。
この銀貨は100リーンで、この大きな方の大銀貨は1,000リーン。』
説明を受けて袋の中の硬貨を数えると5千1リーンある。大銀貨5枚で済むところをわざわざ崩して用意してくれたようだった。
(1リーンはオマケかな?)
『これ、落ち化蛇? 5、千、1リーン?』
ファーナがいちいち拍手をしてくれるので、華は自分の理解が正しい事が分かって安心する。1リーンもオマケで合っていたようだ。
『そう。どう? 5千リーンで売ってくれる?』
因みに華の顔くらいの大きさの丸パン1つが大体10リーン、銅貨1枚らしい。
「“高い” 貰いすぎ……えーと“多い” です」
『ふふ、そんなことないわよ』
どうにもこの老夫婦が孫にお小遣いをあげる感覚でサービスしすぎているのではないかという疑惑が華の頭から離れない。
これを承諾しても良いものかとしばし悩んでいると、ロイが声をかけてきた。
『ハナ。ウロコは1枚50リーンだぞ』
『高いっ』
華が叫ぶと、ロイが笑いながらこの山脈にしかいない蛇なのだと説明する。
(めったに見掛けない上に狩るのが難しいっていうのが大きいんだが、なんて説明すればいいのかわからん…)
取り敢えず地域限定蛇の皮だから、というロイの説明で納得した華にほっとするファーナたちだった。
『??…高く売れた方がいいに決まってるよな?何が駄目だったんだ?』
『あの子の考える適正価格じゃなかったってこと』
一連のやり取りを見ていて小声で呟いたのは丁稚のカイだった。
側にいたシアがその呟きに答えるが、後ろからも別の声がカイと同じことを言ってくる。護衛チームのマール。シアの実弟だ。
『なんでだ?安いならともかく、思ってたよりも高かったんだろ?多く金が手に入るならそれでいいじゃねーか。あの子は何が気に入らないんだ?』
『あんたまで……』
商会で年季奉公をしているとはいえ、15歳になったばかりの見習いのカイはまあともかく、20歳にもなる実弟の言いようにシアは頭を抱えた。マールだって手が足りないときは店先に立つこともあるのに…。
『じゃあ、たとえば。たまたま寄った店であんたのその汚い上着を金貨1枚で譲ってくれって言われたら?』
『は?別に汚く…なくはないけど。儲け☆ って思うかな』
『馬鹿ッ!』
『った!』
『その店はなんでお前のその汚い上着なんか欲しいのか少しは考えてから売りやがれ』
『エディ~っ。あほがー。うちのあほがー。あほすぎるぅ…』
シアより先にマールの頭を叩いた大男に、シアがよよよっと泣き付く。
エドワードは5人編成のこの護衛チームではいつも隊の殿を務めている。小さな女の子がいるということだったので、大男の自分は怖がらせないようになるべく離れていようと距離を取っていたが、可愛い恋人を困らせるその弟につい手が出てしまった。
『え、わかんない。なんでその店はマールの汚い上着なんか欲しいのさ?』
『カイ、あんた帰ったら見習い取れるんでしょ!ちょっとは考えなさい。あんた客が銀貨の支払いで間違えて大銀貨出してきたら儲け☆って思うの?思わないでしょ。たくさん貰えればいいってもんじゃないの!』
『言っておくがウマイ話なんてものは存在しないぞ』
シアとエドワードに自分で考えろと言われても傾げた頭が本来の位置に戻らない弟と弟分に、姉は深く溜め息をつく。
『…その汚い上着に実はすっごい加護が付いていて価値があるっていうのならまだいいよ?儲け☆ って思っておけば。でも売った後で殺人現場にその汚い上着が落ちていて犯人こいつですって言われたり、別にそんな汚い上着なんか欲しい訳じゃないけど商会の人間だって相手が知っていて近付くために金貨を出してきたのかもしれないでしょ!もっと言えばそもそも偽の金貨をばらまくために適当に汚い上着でもなんでもいいから買取りを言い出したのかもしれないじゃない』
『適正価格じゃないと思ったら怪しむ位はしろ』
『あんたたち簡単に犯罪に巻き込まれそうね……』




