37 物々交換…できる?
『ね、ハナさん。まずは品物を見てみない?』
がま口に小銭を仕舞わせたファーナが華の手に持つノートをめくり新しいページを開き、書く動作をして端から品物を説明していく。
どうやら品名を教えてくれるようだ。
『ありがとう、ファーナさん
……おばあちゃま?』
(((ここで使うのかーっ⁉)))
“こんにちは”と“ありがとう”はもう完璧な華だったが、感謝の気持ちを表すために、ファーナが呼ばれたがっていた例の言葉でお礼を告げた。
周りが瞠目する中、ファーナは感激してとうとう華を抱き締めてしまった。
『ハナっ』
「きゃああっ」
通常であれば、ここでアルベルトが行き過ぎたファーナを嗜めるのだが、今はそのアルベルトも真っ赤になった顔の口許を片手で覆い、ぷるぷる震えているばかりで妻の暴走を止めるどころではない。
『ちょ、奥様⁉それ駄目です!』
『旦那様も!悶えてないでコレ何とかしてくれ!』
『あ~…、ファーナ?すっごくすっっごく気持ちは解るけど、おち、落ち着こうか…。ハナがびっくりしてるよ?』
興奮してつい華を抱き締めてしまっていたファーナも、アルベルトに肩を抱かれて諭されると我に返り、慌てて華を解放した。
『ハナ!ハナ、ごめんなさいっ。つい、嬉しくて…』
「ふぇぇ…??」
抱き締められることなど幼児期の抱っこ以来な華は、真っ赤になった頬を両の手で抑えている。
(“おばあちゃま”って、渾名とかじゃなくてもしかして…)
単に喜ぶだろうとその意味も知らずに呼んでしまったが、ファーナの年代から“おばあちゃま”の意味をなんとなく悟る華だった。
『あなた!』
『駄目だよ、ファーナ。ほら“お店やさん”するんだろう?』
妻の拉致犯罪を未然に防いで、アルベルトはあらためて華に露店を紹介する。
『ハナ。これはお店。お店だよ』
そう言って、華が脇に挟んでいたノートに“お店”と言いながら綴る。
そこに華がふり仮名をしている間に妻を落ち着かせ、再び商品の説明を始めさせたのだった。
ひととおり品物を見せてもらった華が欲しいと思ったのは、やはり最初に狙った壺の中身…塩だった。それと布地と糸、ナイフ。
(ナイフも欲しいけど、それより斧か鎌があると助かるんだけど…)
しかし鉛筆と交換ではせいぜい塩か、糸と交換出来るくらいだろうと思った華は、ダメ元で背負子から蛇皮を出して見てもらう。
『『『……………』』』
(…やっぱりこんな鞣してもいない皮なんて交換出来ないかのな…)
蛇皮を広げて黙ってしまった一同に華の眉が下がるが、商隊の面々が黙ってしまったのは、その皮の大きさと出所、それと皮の正体について何から突っ込んだらいいのかわからなかったからだった。
『…アレックス?』
『たぶん、落ち化蛇の皮だと思う。だが、こいつは鱗が硬くてそこらの剣じゃ仕留めるのに苦労するって話だ。どうやって倒したんだか…』
アルベルトが護衛チームのリーダーに尋ねるが、訊かれたアレックスも首を傾げている。
この小さな女の子がこんな大蛇など倒せるわけがない。むしろ丸呑みされそうだ。たまたま死んでいるところに行き合ったのか?
『落ち化蛇って狼も丸呑みするっていう、確か山脈にしかいない大蛇よね…。やだ、ハナっ!怪我はないの⁉』
『ハナ、硬い鱗がびっしりあったろう?ウロコ。どうしたんだ?』
ぴんしゃんしている華の怪我を心配するファーナを余所に、ロイが指で丸を作って華に尋ねる。蛇皮は鞣してこそいないが、鱗はきれいに剥がしてある。落ち化蛇の鱗は砕いて防具等に使われるのだ。華が棄てていなければ買い取りができる筈だった。
(あ~。あの綺麗な鱗ね。少し土器の飾りに使っちゃたけどまだたくさんある!売れるのかな?わざわざ訊くってことは売れるんだよね⁉)
「“ウロコ”山の上…家…えーと。“ある”です」
『『『………』』』
華が山の上の藤棚さんの辺りを指差すと、再び黙り込む面々。
ファーナ達商隊一行は、華が何故山脈の街道に独りでるのかと疑問に思っていたのだが、異国の少女が独りで旅をしているとかそういういう話ではなかったことに気付いたのだ。
(この娘、山の中に住んでるの…⁉)




