23 いのちをいただく
「うっ、う~っ、ひっ、ぐすっ…」
驚いたのと恐怖と混乱で泣き出してしまった華だったが、木槍で刺したままの蛇首を持ったまま、いまだぐねぐね動いている胴から距離を取った。
「うう~っ、ふっ、ぐすっ、…ぅわぁあああ~ん」
(こわいー。こわいぃーっ!なんでまだうごいてるのぉー?こわいよーーっ)
混乱する感情を吐き出すように、ついに声を上げて泣きじゃくってしまうが誰が見ているわけでもないし、怖い思いをして泣いていても助けてくれる人がいるわけでもない。
すぐにでもこの場から、自分が殺したこの蛇から逃げ出したいのだが、完全に沈黙したことを確認してコレを処理しなければいけない。
コレが上から落ちてきた時も本当は一目散に逃げ出したかった。
しかしそれをすると、もう二度とこの場所へは近づけなくなるし、藤棚さんに戻っても今後ずっと怯えて過ごすことになる。
そして怖いと思ってしまえば攻撃が出来なくなる。
攻撃することにためらってしまっても駄目なことを華は知っていた。
曾祖父の教えだった。
曾祖父は経験則を語っただけで、まさか華が前線に出ることを想定していた訳ではないのだろうが、お陰で恐怖が頭を掠める前に攻撃に出ることができた。
ためらったり怖じ気付いたりしている時間が長くなればなっただけ、それに支配されて戦うことが出来なくなるのだろう。
だから大蛇をやっつけた今は、好きなだけ怖がったり泣いたりしても良いのだ。
バサバサと羽ばたきの音が遠ざかって、喧嘩の相手が去っていったようだった。
「ぐすっ、ぐすっ…、すん…」
ひとしきり泣いていると、さすがに激しくのたうつ動きも無くなって、ぬるっとゆるっとした動きになっていく。
(…まだ動いてる。てゆうか、下顎もはくはくしてる…。どうしよう)
この場で焼くか埋めるかしたかったが、落ち着いてくると、これは貴重な食料なのではないかと考えるようになっていた。
「やっつけたからにはだいじにいただかないとだね…」
丸のまま埋めるとかとんでもなかった。
(解体して…。川原まで運んで…。皮…。蛇革…。手袋に…)
そうと決まればコレを運ばないといけないのだが、どうやって運ぶかを思案する。大きさが大きさなので引きずる他はないのだが…。
(とりあえず落とそう)
蛇首の刺さったままの木槍と、戦闘時に放ってしまったスコップで、少しずつ段差の淵まで蛇の体を押しずらしていく。
「よー、い、せっ」
淵に体を纏めたところで思い切って手で押し出した。
ズザザザザーっと段差を滑り落ちていった蛇の体が茅の原に転がったのを確認して、華も降りようと登ってきたポイントまで戻ろうとしたのだが、岩盤の傾斜になにやらきらきらとしたものが見えた。よく見たら足下にも。
拾い上げて納得した。あの蛇の鱗だった。
華の親指の爪ほどの大きさで、かなり固い。
少なくとも華の手では割れない固さ。
(外から攻撃しても通らないはずだよ…)
口を開けてくれて良かった、と思うのと共に“華兎”の刃こぼれが気になってきた。
鞄から完全には出さずに抜いたので鞘は傷ひとつ付かずに鞄の中にあるが、抜き身の刀身には血はそんなに付いていないものの汚れてしまってよく分からない。
(川に行く前にざっと洗っておこう)
まだたっぷり入っている水筒の水で、せっかくだからと蛇の血で黒く汚れた地面のところで刀身を洗う。
びしゃびしゃになった地面には、土や落ちてきた杉の枝葉を被せてから茅の原へ降りて行ったのだった。




