19 立派なお家
藤棚さんに戻った華は、竹を並べて麓側と西側の壁を完成させた。
そして山頂側と東側には出入口として、扉ひとつ分を空けて壁を作った。
出入口には立派な扉を作るつもりである。
「お家だあ…」
昼頃までかかってしまったが、これでもう立派な華のお家である。華は外側から色んな角度で眺めては感動していた。
次は屋根を、といきたいところではあるが、先に火をお家の中に移したかった。
今日はやや風が強くて焚き火が心配だったのだ。
それに初日に文字通り山ほど集めてきた蔦がもう無くなってしまったので採りに行かなければならない。
しかし探索できている川原までのルート上にある蔦は初日にあらかた採ってしまったため、蔦を採集するためにはまた別ルートの探索が必要だった。茅を使って屋根に葺くのは探索で蔦を集めてからになるだろう。
昨日今日と採ってきた川原の石を、大きなものから麓側の壁の内側へ詰めていく。
石はたくさん採ってきたつもりだったが、藤棚さんの長辺、麓側の壁は3メートル強といったところなので、水平な地面にするためにはまったく足りなかった。
ひとまず東側の端から水平エリアを今後増やしていくつもりで石を詰めて斜面を水平に近くなるようにする。
詰めた石の上に、藤棚さんの中央付近に穴を掘って出た土をかぶせて踏み固めた。
あとはまた粘土を採ってきて敷き詰めて綺麗な水平にするつもりだった。
そして藤棚さんの中央に掘った穴は囲炉裏にするつもりである。
屋根を葺くことを考えたら少し深めに掘っておくべきか。
華の構想としては、今は全面土間の床を、囲炉裏を含む東部分を板間ならぬ竹間にするつもりだった。
(やっぱりお家では履き物を脱いで過ごしたいもの)
である。
この3日間、川に入るとき以外は寝るときも地下足袋を履きっぱなしの華だった。
囲炉裏から西側は土間のままにして、竃を作るつもりだった。
もちろん斜面な床を同じように水平にしてからなので、石粘土はもっとたくさん必要になる。
その他にも華の頭の中には藤棚さんを更に素敵なお家にする計画が盛りだくさんだった。
(もし本当にまだ生きているのだったら…。本当なら今頃は軍需工場で戦闘機の部品を作っているか、体育館で風船爆弾をつくっているはず…。その前に大規模空襲のあとだから、瓦礫や死体の片付けに駆り出されているかもしれない。男の子達だけじゃきっと手が足りないもの)
それに比べると、今のこの山の生活はなんて幸せなんだろう。
藤棚さんが一緒にこの山に来てくれたのもなんて有難いことか。
焼け野原に掘っ建て小屋を作るのだって資材がないのに、ここには蔦も石も竹も粘土もある。茅も見つけた。
時間も労力もすべて華自身の為に使っている。敵兵をひとりも殺さないし御国の為になにひとつ生産していない。
(非国民、みたい…。でも)
想うだけ。
もうきっと戻れないし、御国の為に戦うこともできない。その術がない。
空襲にあった母や軍にいる祖父や父、出兵していった兄たちを思うと、幸せに過ごしていることに申し訳ない気持ちもあるのだけれど。
華は、自分があの空襲で死んだのだと思っている。
今ここで生きているのだとしても、千田 華という人間はもうあそこにはいないのだ。
だから、想うだけ。
家族を、友達を、国を、戦争の末を。
華は、想うだけなのだ。




