1 一億一心火の玉だ!
その日、千田 華は夜明け前に家を出て学校に向かっていた。
もうずっと授業はなく、久しぶりの登校だった。
この日も授業があるわけではなく、午後にはいつも通り三鷹の配属先の工場へ行かなければいけないのだ。
それでも学校ですることがあるため、久しぶりの学校にはりきって夜も明けない内から家を出てきていた。
「資材が滞っているらしいの」
前日、いつもより早い時間に解散となり、同じ配属先の同級生と帰宅中にその理由を聞いた。
華たちは高校2年だが、今はほとんど勤労に動員されている。間もなく3年に進級するはずだが、進級出来たとしても、おそらく授業は行われないだろう。遅れに遅れて9月にやっと入学した1年生も、授業はほとんどできていないらしい。
「この先も作業ができないとなるともしかして、配属先が変わるのかしら」
「埼玉あたりならいいけど、先輩方のように京都の工場勤務になったら…」
「どなたか引率に先生が付いて下さるとは思うけど、先輩方も今月卒業はされないようだから、現地にいらっしゃる先生がそのまま私たちも見て下さるのかも」
「卒業されないって、現地での勤労が継続ってこと?いつ東京に戻って来られるのかしら」
本来なら一年上の先輩が明日の自分たちの参考になるはずなのだが、今はそれができない。先が視えないことに不安になるが、こんなとき華は深く考えないことにしている。
考えないようになった。考えても仕方がないことだから。
目の前の、やるべき事を一生懸命やるしかないのだ。
それは皆同じなようで、話題は午前休みになった翌日の話で盛り上がっていた。
家の手伝いをするものがほとんどだが、何人は学校に行くらしい。
授業がないので、個人の学習では補えないところが多々あるのだ。
学校に行けば先生に解らないところを聞くことが出来るだろう。そう話しているのを聞いて、華も翌日は学校に行く気になっていた。
「学校といえば、藤棚の隣にある芝生を畑にするって前島先生が言ってらしたの。私、明日はそのお手伝いに行こうかしら」
「それはいいわ!芝生のところを畑にするならベンチや机も移動させるのでしょう?お手伝いはいくらあってもいいはずだもの」
学校に新たに畑を作ると聞いて、華は俄然やる気になった。もちろん便乗に名乗りを上げる。
「私も!明日は学校からそのまま工場へ向かえばいいわね!」
先生のお手伝いをする。畑が出来ればきっとみんなの役に立つ。
戦地にはいけないけれど、みんなのそれぞれで戦っている。
総力戦なのだから。