18 遭遇 その1
3日目の朝。
目覚めたときには既に辺りは明るくなっていた。
昨日と同じように川へ行き、早速お魚の罠を仕掛けてみる。
(お魚捕れるかな…。今日来なくても明日とか明後日でもお魚来るとうれしいな…)
顔を洗って水筒に水を汲んでいる間にも仕掛けた罠をちらちらと見てしまう。
によによしながら手拭いを洗い終わって立ち上がった瞬間、心臓がはねた。
数メートルの川幅の向こうで、鹿のような灰色の動物がじっとこちらを見つめていた。
鹿にしては毛が長くもふっとしていて脚も短い気がするが、華は本とはく製でしか鹿を見たことがないのでやはり鹿の仲間なのかもしれない。ゆるくカーブした二本の角もある。
突然の遭遇に驚いて動きが止まってしまった華だったが、向こうも戸惑っている様子に見えるのは気のせいではないと思われる。
そもそも華がその動物に気付いたのは、華が立ち上がった時に驚いた気配が川向こうからしたせいだった。驚いた相手がぴょこたんと動いたから華も気付いたが、相手も華が立ち上がるまで気付いていなかったのだろう。
「あ…」
華が吐息のような小さな声を出したのと同時に脱兎のごとく逃げ出したその動物は、竹藪に阻まれて奥には行けずに川下の方へ走って行く。
(なにもしないのに…)
怯えられて逃げられた華は、なんだか悪いことをしたような気分にさせられて肩を落とした。
そのまま竹藪が途切れた辺りで木々の奥に入っていくのかと思われたが、少し落ち着いたのか、走るのをやめて歩きながら後ろ、華の方を振り返りちらっ、少し歩いて振り返りちらっとやっている。
(なにあれ和む~)
遠くの木の陰に入っても顔だけ出してこちらを伺っている様子に、いつか仲良くなれるといいなと思う華だった。
今日も岩に腰掛けて乾パンで朝ごはんにする。
硬い乾パンを口の中でころころしながらゆっくりいただいていると、いつの間にかあの動物の姿が見えなくなっていた。もしかしたら奥の木の隙間からこちらを伺っているのかもしれないが。
(人間に遇ったことがないんだろうな…。天狗様のお山だから人がいないのかな?脅かすのも悪いし、今日は竹はいいかな。昨日採った竹で壁を完成させよう。明日は遠慮しないけどね!)
朝ごはんを終えるとまた石をお土産にして藤棚さんへ戻る。
来るときに持ってきた竹槍は階段の横に置いていく。
ここまでの行来で槍は持ち歩かないけれど、川原と藤棚さんに常備しておくことにしたのだ。もちろん今後の探索には持ち歩くつもりだが。
今後の探索はこの川原へ来たときのようには行かないと予想している華は、まず拠点となる藤棚さんとその周辺を調えることを優先しようと考えていた。
それには竹石粘土が大量に必要で、どれもこの川原で調達している。
あの隣人には今後も顔を合わせることがあるだろうと思うと、華の川原へ足を運ぶ楽しみが増えるのだった。




