150 名付け
気弱さんは少し考えてから華に答えた。
「人間が俺たちのようなチカラのある存在をそう呼んでいるのは知っている」
「じゃあ…」
幻獣とは神獣の眷属だと華は聞いていた。神獣がこちらの世界で神様のような存在なのだとすると、北斗や小鳥さんやこの気弱ではないらしい?気弱さん…アピスも神様のようなものなのか。それともお稲荷さんの御使いの御狐様のような下僕的な存在なのか。
しかしこのアピスと言う幻獣は、北斗の事を「龍神の子」と言った。
とすると、幻獣とは神獣の子供の事なのだろうか。神獣の子供は神獣ではないのか。
華がそう言うと、「いろいろだな」と返って来た。
「そもそも幻獣という呼び方は、恐らく守護神獣でも魔獣でも無いチカラのある存在を人間がそう呼んでいるのだと思う。幻獣と呼ばれている奴だって国を守護する契約を結べばその国では神獣と呼ばれるはずだ。ワイバーンのように神龍の下僕のような働きをしている奴らもいる。眷属だと言われているのはそいつらだろうな」
神獣などのチカラのある存在は、存在が永くなってチカラが溢れると“分身”と言って、存在を分けるのだと言う。卵の形で。
その卵はチカラ満ちると孵りはするが、必ずしも元となった存在と同じ姿をしているとは限らないらしい。
「北斗とかいう奴を龍神の子とは言ったが、俺は便宜上、元となった存在を親と言っているだけで、人間の親や子とは違う。が、たぶん北斗の親かもしくはさらにその親が龍神だと思う。あの森亀の姿で孵った龍神の子を昔人間が贔屓と呼んでいた。俺がアピスって呼ばれるみたいにな」
(えっと、つまり…)
「…もしかして、お名前、無いの?」
「か、勝手に好きに呼べばいいだろう…」
無いらしい。
好きに呼べばいいとは言われても今までのように「気弱さん」とは呼べない。
北斗のように勝手に名前を付けて良いと言うことか。しかし神獣神殿ではアピスと呼ばれていたのだから…。
「アピスさん?」
「はあ!?なん……っ!……っ!……千田 華!あんたは“人間さん”と呼ばれて返事するのか!?」
「あ、そう言う事?じゃあ…えっと……」
(男の子みたいだから大和とか武蔵とか?でも気弱さんだし…)
やはり名前を付けて欲しいと言うことらしい。
素直にそう言えばいいのにと思いつつも、華が気弱さんにしっくりくる呼び名を考えている間にも彼はそわそわ落ち着かない様子で、その足元では何やら草がぴょこぴょこと生えてきている。
(あ)
「いぶき…伊吹っていうのは?」
もちろん草木の息吹きからだが、名前だとするとこの漢字だろう。
華が地面に漢字を書いて、どう?と訊いてみると、いつの間にか周囲の草には色とりどりの花が咲いている。
「いぶき…。伊吹か!生命力のありそうな名前だ「ひよひよひよひよっ」」
「こ、小鳥さん?どうしたの?」
突然羽をぱたぱたとさせながら騒ぎだした小鳥に慌てる華だが、生憎と何を訴えているのかさっぱり分からない。
しかし、気弱さん改め伊吹には何を言いたいのか分かるらしい。
「おちびも名前を付けろと言っているぞ」
「ひよっ」
鳥語を通訳してくれる。
「小鳥さんもお名前欲しいの?えっと、じゃあね…」
黄色いふわふわを見ながらあの凄まじい稲妻を思い出す。力士の名前にもあった…。
「雷電っていうのは?カミナリの「ひよひよひよひよーっ!」えっ、駄目?じゃあ雷神丸とか「ひよひよひよひよっ!!」」
気に入らないと言うか、物凄く抗議されているのは華にも分かる。雷系の名前は駄目なのか?
「あ~、なんか強そうな名前だけどさ」
伊吹の通訳によると、小鳥さんは女の子なのでもっと可愛い名前の方が良いらしい。
(北斗…特に考え無しに男の子っぽい名前にしちゃったけど……)
嫌がって無かったからいいのかなと、華は改めて黄色いふわふわを見つめて可愛らしい名前を考えてみた。
(女の子だったのね…。黄色…黄色いふわふわ…。うーん。目玉焼き…玉子?じゃなくて、丸い…まあるい……)
「月子ちゃんは?月はあの空の月で、子は女の子に付ける美称なの。…どう?」
安直すぎるかと心配になって反応を見てみるが、ぱたぱたと華の肩に飛んで来てすりすりと頬に小さな頭を擦り付けてきた。
「ひよひよっ」
「気に入ったらしいな」
「ふふっ。良かった」
頬に当たるふわふわはただのふわふわではなく、冷えた頬に生き物の体温を伝えてくる。
「これからよろしくね。月子ちゃん。伊吹くん」
「ひよっ」
「伊吹くん!?」
「え、駄目?…じゃあ、伊吹さん?」
「いや、さんもいらないだろ。あんた北斗ってあいつは呼び捨てにしてるだろ」
「そう言えば…?でも北斗は家族だから。くん付けだとお友達っぽいと思ったんだけど…」
「お、友達…?友達……友達か…」




