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異世界で、平和を願う。  作者: ちょこぼーらー
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111 野良亀ジョブチェンジ

『あれ?結局この亀飼ってるの?』


 翌日も、そのまた翌日も。

 いつの間にか藤棚さん、しかも竹垣の中にいる亀。


 椅子代わりの丸太の上で寛ぐ亀を発見したシアが疑問に思うのも当然だった。

 前回、シア達が帰るときに華も一緒に川を渡って、亀を竹林に戻しているのを見ているのだ。

 その亀が藤棚さんでまったりしているのだから、華が一緒に暮らしたくなって連れてきたとシアが思うのも仕方がない。


 華が毎日竹林に亀を戻しに行っていたのは、お世話の仕方が分からないというのもあるが、仲間がいるのではないかと思っていたからだった。


(家族とか、いないのかな…)


 華としてはこの亀が藤棚さんにいたいと言うのなら別に構わないと思っている。

 今のところ噛み付いたりもせず、ただのんびり寛いでいるだけのようなので困ることは何もない。

 特にお世話をする気はないので半野良といったところだろうか。


『ここが気に入ったんじゃね?干し肉貰えるし』


 お世話は特にしていないが、有り余っている干し肉は気紛れに与えている。

 干し肉目当てででここに通っているとは思わないが、とりあえずこの日は竹林に戻しに行かずに放っておく事にした。いなくなったらいなくなったで別にいいか、と。



 この日は特にお手伝いしてもらうこともない為、シアに<神獣の大陸>を読んで貰う。

 写本は一度ざっくり全ページを眺めてから作業に取り掛かるつもりなのでまだ手を付けていない。分からないながらもページをめくるが、一度読んで貰って内容を少しでも把握出来ていれば勉強も作業効率も随分違うだろう。


 ただ華が心配しているのが、シア達は商会の仕事は大丈夫なのだろうかということだった。

 一日おきとはいえ、こんな山の中まで配達に来て、配達のついでにしては結構な重労働を手伝ってくれている。

 今日はまた男性陣は探索に出掛けているが、シアを含めて全員少し様子がおかしいと感じたのは華の気のせいだろうか。


(やっぱり一日おきは大変だから間を空けるとか?週一でも月一でも配達に来てくれるだけでも有り難いんだけど…)


『シアさん、ここくる。だいじょうぶ?』


『?大丈夫って、何が?』


 藤棚さんの中で靴を脱いで寛ぎつつ、枯れ草クッションに腰を下ろして本を開くシアに訊いてみる。


『え~と、しょうかい…ごえい?しごと』


『何言ってんの。華のところに来るのはちゃんとお仕事だよ?変なこと気にしないの!』


 華の頭をぽふぽふとしながらシアは言うが、いまいち納得していない華の顔を見て、むにっとほっぺを摘まんだ。


『ミルクの配達もちゃんとお代を頂いてるでしょ?綿の畑を作るのを手伝ったからハナの綺麗な畑の作り方を教えて貰えて。あ!ファーナさんに情報料請求しないとね?』


『ええっ!?じょうほうりょう、ない。みんなてつだい、した!たすかった!』


 いたずらっぽく言うシアに驚いて、華は手伝って貰ったから情報料は要らないと慌てて訴える。


『そう?でも綿が採れたら売ってくれるでしょ?竹の利用方法も教えてくれたし。あのタケヒ?それに前にハナ、自分でも紙を作ってみるとか言ってなかった?』


 紙を作るのも手伝わせてねと言われて、シア達がちゃんと目的があって通っているんだということが判り、ようやく華も納得が出来たのだった。


 その後、文机で本の文字をなぞりつつ解説付きで本を読んでいると、開け放していた扉から亀が入ってきた。

 日向ぼっこに飽きたのだろうか。何気に藤棚さんの中まで入って来るのは初めての事だ。


『かまって欲しいんじゃない?それか干し肉のおねだりか…』


「あっ、駄目!」


 土間からそのまま竹の間に上がろうとする亀を、華が慌てて捕まえる。


「お家のこの竹のところは汚しちゃだめ!わかった?」


 手拭いを絞って亀を拭くと、亀を持ち上げて目線を合わせて言い聞かせる。


(亀に言ったって分かる訳が…)


 そう思ったシアだったが、まるで分かったとでも言うように右の前足を挙げる亀を見て、まさか、と思う。


 華の言葉は分からないが、何を言ったのかは大体分かる。

 汚いとか汚すなとか足を拭けとかで、入って来るなとは言っていないのもシアには分かる。

 しかし亀にも分かるとは思えないのに、竹の床に降ろされた亀は、華とシアのクッションの間に収まってじっと話を聞いているように見えるのだ。


「亀さん、いっしょに住む?」


 不意に華が何かを亀に尋ねた。


 これはシアには分からない。


(面白い?か、お腹空いた?…かな)


 シアには華の言葉は分からないのに、この亀はまたしても分かったとでも言うように右の前足を挙げ、そうしてたむっ、と華の手に乗せたのだ。


「そっか。じゃあ、よろしくね」


 華がその前足を握手のように握ったのを見て、シアにも何が起こっているのかようやく分かった。


 どうやらこの亀はここに住むらしいと。

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