106 それって魔法?
探索組の報告から数日、華も空を見ることが多くなった。
しかし貰った羽根を持つような鳥は見ていない。
川で茶色の鴨のような鳥は見たが、羽根から想像できる白い、大きな鳥というと…。
そもそもここでは鳥の声や羽音を聞くことも稀だった。
鳥に限ったことではないが…。と考えていた華は、あることを思い出した。
(そういえば…)
『落ち化蛇、けんかした。ばさばさって。大きい鳥!』
『落ち化蛇?って、あのハナが倒した?鳥は見てないのか?』
ロイが、他にも落ち化蛇がいるのか念のため確認するが、倒した個体で間違いはないようだった。
『はねのおと、した。木の上、ばさばさって!おどろいた!』
『ははっ。普段こんなに静かだったらそらびっくりするよな!』
マールの言葉にその時のことを思い出したのか、華は必死に頷いている。
『そう!びっくり?した!!…あ!!』
『どうした!?』
『“なんじゃー、こりゃー”?』
『ぶっ』
『マールッ!このバカちん!』
華が突然上げた声に、何かを思い出したのかと思ったロイだったが、華の口から出てきたのは、数日前にマールが叫んだ言葉だった。
華はそれを“驚いた時の慣用句”として覚えていたのだ。
『おどろいたことば。ちがう?』
(なんだかすごくしっくりくる言葉だったから使ってみたけど間違った?)
『あー…。違わないが…。女の子は使わないな』
華はシアに叱られているマールを見て何かを納得したようだった。
『で?木の下にいて鳥の姿は見えなかったと…』
『あれ?じゃあ落ち化蛇を殺ったのってその鳥?』
マールの言葉にそれならば合点がいくと、全員が華を見た。
狼でさえ丸呑みにすると言われている落ち化蛇。実際に皮や骨を見ているので、華よりも大きな個体だったのは確かだ。
華は岩熊や闇豹も倒しているが、落ち化蛇に遭遇した時は木槍しか持っていなかったはずだった。木槍でどう大蛇を倒したというのか。
しかし、すでにその謎の鳥によって倒された後だったというのなら。
ロイ達の予想ではその鳥は神獣の眷属たる幻獣の類いだ。
見たことはないが、幻獣が伝え聞く様な強力な力を持つのならば落ち化蛇だろうと退けられるだろう。
そう考えたロイ達だったが、注目された華はこてんと首を傾げるだけだった。
『ハナ、木の上でおっきな音がしてびっくりしたのよね?それから?どうしたの?』
『上を見た。見ていた?それから、バキバキバキー、ドサドサーッって。落ち化蛇、落ちた』
『『『『……』』』』
『なんじゃー……え~と、びっくりした?きゃーって!』
木の上から大蛇が落ちてくる様を想像してシアとマールは一瞬ぶるっと震えた。
思い出したのか、華も肩に力が入っている。
『それは…びっくりするよな。うん。…それで?』
『落ち化蛇、ぐねぐね!こわい!わたし、槍、えいって』
華が自分の口を指したので、ロイはすぐに理解した。
岩熊を倒した時のように、口の中に槍を突いたのだろう。逆に、落ち化蛇を倒した経験があったから岩熊の口を狙ったのかと。
『口に槍を刺したのか!岩熊みたいに?』
『そうです。でも木の槍、だめだった』
『倒せなかったのか。どうしたんだ?』
『“刀”でスパッて』
華は手刀で切り落とす動作をするが、ロイの知らない“刀”という言葉が出てきた。
木槍の他にも刃物を持っていたのか、それともーー。
ロイは通常有り得なくて考えもしていなかった事を華に聞いていないのに気が付いた。
『あたま、ない。でも落ち化蛇うごいた!ずっとぐねぐねって!こわいー!』
『ああ…。蛇は頭を切り落としてもずっと動いてるよな…』
エドワードも死んだ蛇が動くのを思い出したくないらしい。
『こ、怖かったねえハナ。大丈夫よ』
シアが華を抱き締めて背中をぽんぽんし出した。
(いや、まだ聞きたいことがあるんだが)
ロイは落ち化蛇に止めを刺した“刀”について聞きたかった。特別な武器なのかそれとも。
(スパッって言った。鱗で強固に守られた落ち化蛇をスパッってことはもしかして)
『なあ、ハナ。もしかして魔法、使えるんじゃね?』
“刀”とは魔法の事なのではないか。
ロイが疑問に思ったのと同じ事をマールが聞いた。




