101 鬆が入ったプリン
華は新しい畑の説明をしようと外に出ようとした。
その前に、と、蒸し始めたプリンの様子を少し見ると、何とすでに固まり始めていた。
「やっちゃった…!」
(温度が高過ぎたんだよね…。もう火から下ろしちゃおう)
まだ傾けると揺れるので表面が固まっただけのようだが、火から下ろして沸騰したお湯だけで蒸し上がるものだろうか。
(完全に火から下ろしても駄目な気がするけど…。そうか、火の方を遠ざければ弱火っぽい温度になるかな)
帰って来てから火をつけたばかりなので、自作の竃には火がぼうぼう燃えている。お湯がすぐに沸騰したのはいいけれど、確かプリンはもっとじっくり蒸していた気がする。
弱火にする手段として、原始的に火自体をほとんど囲炉裏の方に移したのだ。
『畑を見に行くのね。わたしも行くわ』
囲炉裏の前で座っていたファーナが立ち上がって靴を履いた。
華がプリンを作り始める前に枯れ草を詰めた座布団をお勧めしたのだが、ファーナは床に直接座るのに慣れていないようだった。
(そう言えば全体的に洋風の生活みたいだったもんね。椅子のひとつでもあった方がいいのかな?)
素敵な椅子に出来そうな倒木があったら拾って来ようと思った華だった。
外に出ると、アルベルトは庭の畑を飽きもせずに見ていた。
『ハナ、芽がきれいに揃っているね』
『えへへ。ファーナさんにもらったたね。かわいい』
4列の畝すべてに芽がきれいに並んで出ている。
どれもがまだちっちゃな双葉状態なので、整列している様子がより分かりやすく見えている。
アルベルトも一緒に竹垣を出て、茅の原を案内する。
『“茅”とる。わた、ここにはたけ、つくる、です』
山の斜面に広がった茅の原は、北側の一部は華によって刈り取られているが、まだほとんどが手付かずで、華の背丈ほどの茅で壁のようになっている。
しかも他の密集地帯に比べ少ないとはいえ、木も生えていないわけではないのだ。ここを開墾してこれから畑を作るとなると、さぞかし大変な作業になることだろう。
シアは、畑か少なくとも綿を植える場所がすでにあるのだと思っていた。
(開墾からとか…。予想以上のゼロスタートね…)
シアがアルベルトを見る。
昨日綿の種を購入したと報告の中であったので、アルベルトもファーナも漠然と植える場所がすでにあるものだと思っていて深く考えていなかった。
そんなに綿を植えて何に使うのかと、収穫後の事の方に思考が行っていて、まさか開墾からだとは考えてもいなかったのだ。
(がんばり屋さんというか…無茶をする娘だな~)
町に住めばいろいろ楽だろうに山でひとりで住んでいたり、必要と思えば行ったことのない町に突然出掛けたり。それを考えたら言葉のまったく通じない異国で女の子ひとりで住もうというのがすでに無茶ではあるのだが。
この自分の背丈ほどもある枯れ草の原っぱを開墾するのもひとりでがんばるつもりなのだろう。本人はにこにこしてあっちからこっちまでを~なんて開墾計画を話している。
アルベルトに華の畑作りを知りたいという下心は当然ある。
純粋ではないがしかし、単純に手伝ってあげたいという気持ちが大きい。
アルベルトはシアに頷いた。
『ね、ハナ。わたしも一緒に畑作るのしていい?』
「?」
『ハナはここに畑を作るのよね?わたし畑作った事ないんだ。やってみたいな!……だめ?』
(え、シアさん畑作りを手伝ってくれるの?ここまで来るの大変じゃない?)
華は思わぬ申し出に戸惑ったが、やってみたいと言うのなら断る理由は特にない。ここに来るのも、馬車でなく馬ならそんなに大変ではないと言う。
(シアさんが来るなら…本、読んでもらえるかな)
華にも下心はあった。
そしてーー。
『あ、そうだ!ついでに新しい卵とミルクを配達する?』
『はいたつ!』
畑作りにシアが参加することになった。
シアはもちろんエドワードやマールも連れてくるつもりでいる。
藤棚さんに戻った華はプリンの固まっている様子を見て、竃から鍋を下ろした。
器を冷水に浸けて冷まして小皿によそう。
土器の小皿はたくさん作ってあった。
プリン液は味見をしたので問題ない。
問題は蒸し加減だ。
火を弱めたときに、気休めだが軽く器をとんとん落としたのでそんなに酷くはないはず…。
「どうぞ」
作った小匙を添えてファーナ達に勧める。
いざ実食。
(うん。鬆が入ってる…!)
予想通り鬆が立ったプリンは、それでも素朴な懐かしい味がした。




