9 持ち物を確認
焚き火の前に再び座ってカバンを開ける。
白の丈夫な肩掛けカバンを開けると、前面に1つ大きなポケットがあり、そこには防空頭巾が挟まっている。
頭巾には綿が入れてあるのでポケットにはまったく入っていないのだが、すぐに被るつもりでいたので前ぽっけに突っ込んだままだったのだ。
日も暮れたし、とそれを被る。
華が着ているのは紺のセーラー服に絣のもんぺと毛糸で編まれた緋色のカーディガン。これからきっと気温も下がるだろうが、焚き火を絶やさなければ大丈夫だろうと思われた。
(頭巾、あったかい。持ってて良かった。…肝心の空襲時には使ってなかったけど)
前のポケットには他に今日大活躍した小刀が入っている。
木の柄と同じ鞘付で刃渡り数㎝の物で、武器にはならないだろうが採集や工作になくてはならないものだ。
刃物はもうひとつカバンの底に大事にしまってある。
華が生まれたときに、母方の祖父が家に伝わる大事な守り刀を華のものとして下さったのだ。
なんと銘まである。
《華兎》
鍔はなく、白の鮫肌の柄に黒漆の鞘、どちらにも蒔絵や螺鈿で小さく華と兎が施してあるのだ。
祖父が蔵から出してきて『これは卯年に生まれた華にふさわしい』と贈ってくれたらしい。
ずっと部屋に飾っていたが、去年祖父が戦死してからは持ち歩いている。
自分に出来る手入れはしているが、実際は御守りとしてカバンの底に入れていてもちろん使ったことはない。しかし。
(使うべき時が来たら躊躇わず使おう…)
実用する覚悟をして底から前のポケットに入れ直した。
他にもカバンの中には
・手拭い
(2本あったが1本は厠用に)
・ノート2冊
(1冊は数ページ使用。1冊は未使用)
・筆箱
(木工所のおじいちゃん作。餅つき兎の焼き印付き。万年筆、鉛筆、消しゴム、捨てられないちび鉛筆たくさん)
・裁縫道具
(巾着袋の中に針と糸と糸切狭)
・鏡と櫛
(二つ折りの鏡の背に柘植の櫛が収納されている)
・財布
(がま口。小銭、御守り)
・水筒
(陶製、木栓、自作の毛糸カバー)
・乾パン
(紙箱入り。すごく固い)
・マッチ
(配給になる前に銀座の洋食屋でもらったお洒落な箱入り。古い)
・古新聞
(焚き付け用。ノートを広げた大きさ二枚。一部千切り済み)
それと、新品だった木製スコップは本日大活躍で今は休憩中なのと、もんぺのぽっけに木綿のハンカチが1枚。
自宅に常備してある避難用の柳行李のように着替え等は入っていないが、空襲にあって突然山の中にいたにしては随分上出来なのではないだろうか。
(怪我もない。水場もある。大丈夫…)
何より、一緒にここへ来た藤棚がある。
華には最初から下山する気はさらさらなかった。
この山で生きていく。
ただ生きるのではなくて、ちゃんと生活していけるようにと。持ち物チェックを終えた華は採集物の加工を始めたのだった。




