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想いの彩(おもいのいろ)  作者: ひより那
想いの彩(おもいのいろ)
8/53

第8話 いつから……

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

==========


 和奏が腕を掴んで大銀杏(おおいちょう)に走る。引かれる腕に体を委ねながら足を動かす。こんなことが昔にあったなぁと小学生のころを懐古してクスリと笑う。


「椎弥、急に笑ってどうしたの?」

「昔、和奏とこんなことがあったなぁと思ってね」

「何言ってるのよ。昔は椎弥がわたしを引っ張ってたでしょ。今は逆ね」

 笑顔の和奏の顔が小学時代の和奏に重なって見える。あの頃の楽しかった思い出が蘇る。


 大銀杏は家から歩いて5分もかからない距離。神社の中心に巨大な柱のように立っている。いや、(そび)えているといった方が正しいかもしれない。


 秋を過ぎれば黄色い葉っぱが舞い落ちて、黄色い絨毯の上を走り回った思い出。


 いつからだろう、大銀杏(おおいちょう)に葉っぱがつかなくなったのは……。 


 ここ数年。いつのまにか大銀杏の木に葉がついている所を見ていない。


「椎弥、思い出さない? 大銀杏の葉っぱの雨を」

「そうだな。小学校に上がる前かな。黄色い絨毯の前を走り回ったな」

「いつからだろうね。大銀杏に葉っぱが茂らなくなったのは……」

「地元なのに全然覚えていないな。中学校の通学路だったのに」

「わたしなんか高校に通うのに神社前のバス停を使ってるのよ」


 顔を見合わせて笑いあう。こんな──


「こんな、当たり前だった日常を思い出すでしょ」

 僕が気持ちが分かったように和奏は口に出した。

「そうだな。それで和奏、なんでここに来ようと思ったんだ」


「わたしね夢を見たの。女の子が泣いている夢」

「あ、それ……。起きた時に忘れちゃったけど、その夢だ。僕も見たよ」

「えっ、ホント! じゃあ、覚えてない? わたしね電車で椎弥と昔のことを話している時に思い出したの」

「うーん、なんだろう……」

「ここで椎弥とふたりで遊んでいた時に泣いていた女の子覚えていない?」

「…………」

 記憶を巡らせる。大銀杏の木、舞い散る葉、駆けまわる絨毯の上、そして木の下で泣いている女の子!

「あ、あぁ……」

「思い出したのね。偶然かもしれないしこじつけかもしれない。でも、椎弥も同じ夢を見たってのは不思議ね」

「確かに……。でも見たのは数回。いつも頭を撫でて慰めてたよな。小さい女の子だったな。急にめっきり見かけなくなったけどどうしたんだろうね」

「そうね。夢と昔の記憶が頭から離れなくなっちゃって椎弥に一緒にきてもらったんだ。ごめんね急に」


「あら、ふたりとも。揃ってどうしたの?」

 彩衣が通りがかった。

「彩衣先輩……。そういえば家は大銀杏の近くって言ってましたよね」

「ええ、あそこよ」

 神社のある敷地の隣。大通りから影になって見えない場所に小さな平屋住宅が建っている。最近建てられたのかかなり新しい建物。

「ごめんね彩衣。ビックリさせちゃって、ちょっと昔を思い出して椎弥をさそって大銀杏を見に来たのよ」


「ふふふ、この銀杏(いちょう)の木って大きいわよね。私は葉が茂ってるところは見たことないけど、私が一番最初に描いた絵は葉っぱが茂る銀杏(いちょう)って教えられたわね」

「へぇ、昔この辺りに住んでたんですか?」

「わたしは県外に住んでたの。ちょっと事情があってここに越してきたのは中学校3年生の2月頃だったわ」

「彩衣と初めてあったのもここだったわよね」

「そうね。ちょうど私が大銀杏を見上げてたら和奏ちゃんが声をかけてくれたんだよね」

「そうそう。それからドコネの交換してご飯食べに行ったり一緒に勉強したり……。わたしが彩衣を好きになっちゃって、高校に入ってからも連絡しまくったわ」

「心を読む女、前の学校でも気持ち悪がられたのに良くわたしと友達になろうと思ったね」

「彩衣先輩、なんで心を読めることを隠さないんですか。隠してしまえば誰も気づかないんじゃないですか」

「そうね。わたしも思ったことがあったわ。でもね、わたしは心が読めるといってもその人の感情を肌で感じるようなものなの。それに人の心を読むことに私は引け目を感じていないから。必要であれば言うし、必要なければ言わない。思った事を言うか言わないかみたいなものね」

「彩衣がそこまで語るなんて珍しいわね。椎弥の前だから?」

「ふふふ、そうかもしれないし、この大銀杏(おおいちょう)が言わせてるのかもしれないわね」

 見上げる彩衣先輩に見惚れてしまう。哀愁を感じさせる悲し気な姿に心が奪われていた。


「家でお茶でも飲んで行く?」

 彩衣先輩の提案に和奏は首を振る。

「明日勉強会でしょ。今日はここで椎弥と思い出話をしにきただけ。彩衣とも会えて嬉しかったけど今日の所は帰るわ」

 ちょっと残念な気持ちが僕を包んだ。明日、ここに来れることは分かっているけど折角なので行ってみたいと思う気持ちがあった。そんな僕を見て彩衣先輩がクスリと笑う。

 心を読まれた。そう気づいくと頭を掻いて心を誤魔化す。無駄だとは分かっているが……。


「椎弥、残念がってるのがバレバレよ。私でも分かるわ」


 肩をがっくり落とし、和奏に引かれるまま家に向かう。


「椎弥、泣いている女の子の夢を見たら教えてね。わたし、なんか気になるの」

 僕もそのことについて気になっていた。お互いに教え合うという約束をして和奏と別れた。

 


==========

前作までの登場人物:

 1B:花咲椎弥(はなさきしいや)

    ……主人公:人間不信があったが徐々に心が融解されていく。

    中村茜(なかむらあかね) ……クラスメート、美術部

    西田謙介(にしだけんすけ)  ……クラスメート

   担任:涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問

 美術部:2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める不思議な少女

     2C:海野夏美(うみのなつみ) ……元気、あまり異性を感じさせない

     3C:石原早希(いしはらさき) ……頭が良い。美術部が大切


 幼馴染:原田和奏(はらだわかな) ……家が近い。小学校の通学班が同じ距離に住む

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