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想いの彩(おもいのいろ)  作者: ひより那
想いの彩(おもいのいろ)
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第5話 心の絵

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

==========


 クラスの中でも成績上位者と下位者が分かってくると、コミュニティーに変化が生じてくる。勉強や部活動、人間関係を踏まえた自分の損得が無意識に表出した結果なのかもしれない。


「椎弥、中間テストどうだったよ」

 謙介が首に手をまわして聞いてくる。クラスの男友達で一番仲良くなった友人。

 チョイワルな見た目だがスポーツは万能。サッカー部の時期エースとまで言われている上に優しい。ただ頭の方は……

「まあまあかな、いつもよりは出来たと思うけど」

 無難に答える。

「じゃあ勝ったな! おれはいつもより素晴らしく良く出来たんだ。これならオール50点越えも目じゃないぜ」

 拳を突き上げる謙介。いつも以上に気合が入っている。


「あのねぇあなたたち、50点で満足しないで上を目指しなさい!」

 隣に座る中村が話に割って入ってきた。

「今度、私がふたりに勉強を教えてあげるわ!」

「おお、椎弥、まさしく神様仏様茜さまだ。これで俺たちも平均点越えの成績が出せるのか!」

「ちょっと謙介くん、わたしが教えただけじゃダメなのよ。自分の努力も大事なの」

 時計をチラリとみる謙介。焦ったような顔をして慌てて走り出す。

「じゃあ、またな。部活遅れちまうよ。中村、本当に勉強教えてもらうからな」

 手を振りながら謙介が教室を出ると数名の女子が中村の周りに集まってきた。


「ちょっと茜さん。謙介くんと勉強をするなら私たちも入れてちょうだい」

「そうよ、わたしも謙介くんと一緒に勉強したいわ」


 流石に謙介はモテるようだ。さっきのやりとりを聞きつけた謙介狙いの女子が群がってくる。

「じゃあ僕は先に美術部に行ってるよ」

 準備を整えて席を立つと、慌ててついてくる茜。

「みんな部活に行くからまたね。謙介くんと勉強するときは必ず呼ぶねー」

 そう言い残し駆けてきた。


「まったく、謙介くんのことで滅多なことを言うもんじゃないわね」

「そうだな、あいつはモテるからな」

「茜さんは謙介のことは気にならないの?」

「まさか。何々? もしかしてわたしのことを気にしてくれてるの?」

「そんなわけないだろう。惚れた腫れたなんて全く興味が無いよ」


 茜と雑談をしながら美術室に向かう。昨日のショッピングモールでの彩衣先輩との出来事を振り返ると、部活で会うのがなんとなく気恥ずかしい。


 美術室には先輩たちが既に集まっていた。そういえば美術室で顧問の先生を見たことが無い。


「こんにちはぁ、先輩がた、そういえば顧問の涼島先生をここで見たことないんですけど来てるんですか?」

 ふと疑問に思って先輩方に聞いてみる。

「ああ椎弥くんいらっしゃい。先生はねぇあんまり見かけないわね。時折ふらっと来ては課題を置いていくけど……必要なプリント類は部長の私のところへ持ってくるわ」

 石原部長が答える。あまり先生に好意を持っていないように感じる。

「じゃあ石原先輩が先生に頼られてるんじゃないですか」

 目を輝かせる茜。

「茜ちゃん、違うのよ。部長の所へ持ってくるっていうのは、職員室に来た3年生に持っていくように頼むってことね」

「そうなんですか」


「でもねっ」海野が人差し指を立てて語る「頼まれた3年生から聞いたことあるんだけど、持って行くのが楽しみらしいのよ。なんてったって石原(さき)先輩は男子からも女子からもモテるから……。バレンタインになると大変──」

 口を塞がれる海野。モゴモゴしながら続きを喋っているが何を言っているのか分からない。

「ふふふ、ふたりとも海野(なつみ)のことは放っておいて始めましょ」


 いつも通りの席で絵を描いている小鳥遊。他の部員は固まって絵を描き始める。


石原先輩(ぶちょう)、なんであい……小鳥遊先輩はいつも一人で描いてるんですか」

「椎弥くん、美術部はね基本自由なの。きちんと作品を作っていればどこでも誰とでもいいの。小鳥遊さんを阻害している訳じゃなくて彼女の意思なのよ」

「そうなんですか……ちょっと行ってみます」

 画材道具をまとめて小鳥遊の隣に移動した。呆気に捉われる女性陣。


「彩衣先輩、隣いいですか」

 静かにこちらを見る小鳥遊。「どうぞ」と軽く返事を返されると隣に座った。

 

 微かに「小鳥遊さんが受け入れた……それも男子を」なんて声が聞こえた。


 初めて見る彩衣先輩の絵に心を奪われた。何というのだろう幾重にも色を重ねて描かれた絵。塗るというより様々な色が一つの世界を作り出しているように素晴らしかった。


「椎弥くん、この絵はねわたしの見える世界を抽象化したものなの。人の心が読めると色々あるのよ、わたしの理想の世界みたいなものね」

「彩衣先輩の見える世界かぁ、僕には分からない世界だけどこの絵は僕の心を癒してくれるのは分かる」

「ふふふ、聞いたわよ和奏ちゃんから……大変だったわね」

「でも思うんです。早く分かって良かったって。あの時は大変だったけど今は信頼できる友達がふたりできました。和奏と彩衣先輩。根拠はないけど……。でもそれが嬉しいんです」

「わたしはともかく、和奏ちゃんは大事にしてあげなさい。あの子は本当に心から信頼できる人よ。逆に騙されないか心配になっちゃうくらいに真っ直ぐだから」



 大きな音が後ろから聞こえた。椅子を倒した大きな音。中村が僕たちのもとへ歩みよってきた。

「ねぇ椎弥くん、小鳥遊先輩と仲が良いじゃない。先輩たちもあんなににこやかな先輩を見たのは初めてかもって言ってたわ」

「茜さん、実は彩衣先輩は僕の幼馴染の友達だったんだよ。昨日偶然会ってね、色々と話をしたんだ」

「そうなんだ……。それは良かったわね。今度、美術部として交流を深める意味でわたしも混ぜてもらおうかしら」

「茜さんも今度来るかい? 幼馴染も彩光高校で美術部だから話は合うと思うんだ」

「中村さん……あなたの心……」

 小鳥遊のことを忘れていたのか、思い出すようにハットした表情を見せる。

「椎弥くん、小鳥遊先輩。その時はお願いしますね」

 そう言い残してそさくさと席に戻って行った。


「椎弥くん……」

「なんですか彩衣先輩?」

「うーん、やっぱりいいわ。作業を進めましょう。中村さんのことは私から和奏ちゃんに話しておくわ」



==========

前作までの登場人物:

 1B:花咲椎弥(はなさきしいや)

    ……主人公。中学校で裏切りにあってから人間不信がある。

    中村茜(なかむらあかね) ……クラスメート、同じ美術部

    西田謙介(にしだけんすけ)  ……クラスメート

   担任:涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問

 美術部:2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める不思議な少女

     2C:海野夏美(うみのなつみ) ……元気、あまり異性を感じさせない

     3C:石原早希(いしはらさき) ……頭が良い。美術部が大切


 幼馴染:原田和奏(はらだわかな) ……家が近い。小学校の通学班が同じ距離に住む

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