第4話 3人の秘密
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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高校に入学して1か月が経った頃、不足した画材や参考書を買いに近くのショッピングモールへ買い物に来ていた。画材道具を探していると聞きなれた声。
「椎弥、偶然だねー」
画材道具を片手に買い物をしていた和奏だった。
「和奏、お前……それ……。なんで画材道具なんて持ってるんだ」
「えっとね、彩光高校で美術部に入ったの。私も絵を始めてみようかなぁ……なんて」
「美術……って、中学校で頑張ってきた吹奏楽はどうしたんだよ! 小さいころから一生懸命ピアノを頑張ってきただろ」
「いいのよ。ピアノだったら家でも弾けるからね。椎弥が美術部に入ったって言うから私もどんなものか見てみたかったのよ」
入学式の日に交換したドコネを使って他愛もないメッセージをゆっくりと送りあっていた。確かに、美術部に入ったことは言ったけど。
「本当に……それでいいのか」
「いいのよ。若いうちはなんでも経験よ。ほら、買い物したら2階のフードコートでご飯でも食べて行きましょ」
雑踏を避け休日で賑わう店内の喧騒を抜けて2階のフードコートへ移動する。そこで見知った女性を見つけたのか「椎弥、席をとっといて」と言い残し駆けて行った。
ちょうど席を立った家族連れに席を譲ってもらい和奏を待った。中々戻ってこないのでドコネにメッセージを送って彼女を待つ。
お昼には少し早い時間帯だがほぼ満席状態。席を探す人がフードコートの賑わいを醸し出す。その中に歩いてくる和奏を見つけた、既にトレーを持ちファーストフードで買ったであろうハンバーガー類が乗っている。
一緒に歩いている女性は……小鳥遊先輩。
「お待たせー、先輩を見つけたから誘っちゃったー」
元気よく和奏が席に座る、表情一つ変えない先輩。気にせず和奏の隣に座る。
「た、小鳥遊先輩……。どうして和奏と」
「あれ、椎弥、先輩のこと知ってたんだ。そういえば先輩って藍彩……。同じ学校か」
「和奏、小鳥遊先輩と知り合いなの?」
「そうよ。一昨年2月頃の卒業間近に中学校へ転校してきたのよ。椎弥はいつも一人だったから知らなかったと思うけど」
「だって学年が違うでしょ」
「先輩はね、あんまり人と馴染まないのよ。ひとりで暮らしているし家が近いから連絡先交換して友達になったってわけ」
「和奏ちゃん、わたしと無理に付き合わなくても良いのよ」
「何言ってるのよ彩衣。わたしは彩衣が好きなの。折角だから椎弥とも連絡先交換しなよ」
じっと和奏の顔を見つめる小鳥遊。何かを感じ取ったように口を開く。
「和奏ちゃんあなた……。やっぱり悪いわ」
「ちょっと彩衣、わたしはそんなんじゃ……。あっ、彩衣に弁解しても無駄よね。いいのよ、折角の縁だからみんなで仲良くなりたいの」
テーブルに置いてあるスマホを取り上げる和奏。小鳥遊にスマホを取り出すように促し、取り上げる。QRコードを使ってドコネのフレンド登録を済ませる。
「あれ、小鳥遊先輩のアイコンって大銀杏なんですね」
僕と和奏の住む家の近くにある神社の大銀杏。その写真だった。
「花咲くん、私の家のすぐ近くにあるから……」
「椎弥、彩衣。かたい! かたすぎるわ。これから椎弥と彩衣は友達って事で名前で呼び合いなさい!」
「ちょ、和奏。僕は良いけど小鳥遊先輩の意志はいいのかよ」
「和奏ちゃんが言うんだものね。私もいいわよ。よろしくね椎弥くん」
「あ……彩衣先輩」
なんだかすごく照れ臭い
「ちょっと椎弥、何を照れてるのよ。名前で呼びなさいって……って言っても同じ高校の先輩と後輩だもんね……って、同じ美術部!」
「和奏ちゃん、そうなのよ。だから椎弥くんのことを知ってたのよ」
「いいなぁ、私も藍彩高校に行きたいなぁ」
「何言ってるんだよ和奏、優等生だろ! 和奏が行くような学校じゃ……行っている僕が言うのもなんだけど」
「そうよ! 椎弥は私より学力が上でしょ。なんで藍彩なのよ! どれだけ勉強したと思ってるのよ」
「そ、それは……」
「冗談よ。誰もいない学校に行きたかったんでしょ。そんなこと分かるわよ」
僕と和奏のやりとりを見て笑顔になる彩衣。くすくすと笑っている。
「ふたりとも仲が良いわね」
「彩衣先輩。幼馴染なだけです。腐れ縁ってやつです」
「彩衣、それ以上は言わないで。お願い。でも彩衣も残念だったね。もっと早く転校してくれば上の学校を目指せたのに」
「和奏ちゃん、わたしはどこでも良かったのよ」
「和奏、彩衣先輩って好きで藍彩(高校)に行ったんじゃないの?」
「そうなの。実は彼女、勉強が出来るのよ。転校した時期が悪くってね。藍彩(高校)しか受けられるところがなかったのよ」
「じゃあ、僕と同じようにわざと点数を抑えて……あっ!」
「ちょっと椎弥、何やってるのよ」
「ごめん、和奏、彩衣先輩、このことは内密にお願いします。それでうまくやってるんだから」
「全く椎弥は、まあ中学校であんなことがあったんだもんね。分かったわ、秘密にしておいてあげる。椎弥のことは彩衣にあとでドコネで教えておくわね、いいでしょ」
「良いけど……、彩衣先輩はそんなこと聞きたくないんじゃ」
「ふふふ、是非聞きたいは、椎弥くんの心の色は不思議だからね」
「椎弥、一応行っておくけど、彩衣に隠し事は無駄よ。彼女は心が読めるの、そのせいで友達がいないのよ」
「和奏、そんなにハッキリ……、って、そうか隠しても……。心が読めるってのはそういうことか」
「だからね、わたしも彩衣の心に触れられるように頑張ってるってわけ。難しいけど」
「椎弥くん、私も同じなの。学校の成績を抑えているの……。わたしはただでさえ気味悪がられて友達がいないからなるべく目立たないようにね」
「そうか。相手の心が読めるって良いことだけじゃないもんな。妬み嫉み怒り……。多くの人と関わるほど大変なのか」
人の心が読めるってことは信頼が大事か……。心からの信頼。でもその時に裏切られたらまた……
「椎弥くん、大丈夫よ。わたしはきみを裏切ったりしないわ。わたしの大切なふたりの友達だからね」
クスリと笑う彩衣先輩。
「こら椎弥! 今、失礼なこと考えたでしょ。大丈夫よ。わたしたちは味方よ。ゆっくり心の傷を溶かしていきましょう」
既に食事が終わっている和奏。さりげなく彩衣も終わっている。僕は買ってきてすらいないのに……。
「じゃあ椎弥、わたしは彩衣と少しブラブラしてくるわね、また3人で遊びましょ」
和奏は彩衣の分と合わせてごみを分別すると、彩衣と共に店内へ消えていった。
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前作までの登場人物:
1B:花咲椎弥
……主人公。中学校で裏切りにあってから人間不信がある。
中村茜 ……クラスメート、同じ美術部
西田健介 ……クラスメート
担任:涼島啓介 ……担任、美術部顧問
美術部:2A:小鳥遊彩衣 ……心が読める不思議な少女
2C:海野夏美 ……元気、あまり異性を感じさせない
3C:石原早希 ……頭が良い。美術部が大切
幼馴染:原田和奏 ……家が近い。小学校の通学班が同じ距離に住む
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