8話 弥伊の後悔と懺悔
過去の話です、私は書いていて悲しくなったから、悲しい話です外で見てる方は注意かも。
俺が出雲 弥伊だった頃の過去を少し語ろう。
俺がまだ8歳だった時、母さんの友達が「獺の赤ちゃんが生まれたから、育ててみない? 子育てにも良いし」と言ってきたらしいので、日曜日に俺と母さんで、母さんの友達の家に行った。
そこで見た獺の赤ちゃんが可愛くて、母さんに「僕も一緒に世話をするから買いたい!」っと俺は駄々をこねた、すると母さんは条件付きで買う事を許してくれた、その条件は「ちゃんと、最後まで面倒を見るのよ?」だった、当時俺はその意味を分かっていなかった、でも面倒を見る事はご飯やトイレ散歩などの世話をするって事は分かっていたから、それは欠かさずやっていたその甲斐あって兄妹の様に仲良くなった。
そして歳月が経ち、俺は家に一番近い大学を出て東京の会社に就職する事が決まった、だから家族とは離れて独り暮らしになる、最初は獺のフツマを連れて行こうと思ったが、一人と一匹が居なくなると母さんと父さんが寂しがると思い断念した、それ自体は後悔していない、毎年帰省してフツマと遊んだりしたからな、…後悔したのは数年後だった。
入社して毎日忙しく働いたが楽しかった、先輩と飲みに行ったり同僚や上司とペット自慢や苦労話したり、新しいプロジェクトを任せてもらったりして、本当に辛くも楽しい日々だった、…だが母さんから「フツマが衰弱して、いつ死んでもおかしくないから一回帰ってきなさい」と落ち込んでる声で言ってきた、俺はその時、フツマはもう歳が歳だし体調が悪い日だろうと思ったのと、仕事のプロジェクトが一番忙しい時だったから、俺は「母さん、今仕事が忙しいんだ、悪いけど帰れないんだ」そう言った、俺は自分の言葉も帰らなかった事もずっと後悔していた。
後悔の理由は、フツマが衰弱したまま死んでしまった事、俺がその事を知ったのはプロジェクトが無事終わってプロジェクトメンバーと上司の皆で打ち上げ中に母さんからのメールで知った、その時は母さんの電話から3ヶ月経っていた、俺はメールを見てすぐに同僚や先輩に謝って上司には「打ち上げ中に急で申し訳ないですが、3日間休暇を下さい!」と言ったら、上司は理由を聞いてきたので、俺のフツマ愛を知っている上司だから素直に話した、すると「なにしてんだ! 早く帰らんか! 有給休暇で構わん申請も戻ってからで良いから今すぐに新幹線に乗って帰るんだ!」そういって2万を渡してきた俺は「すいません!」それだけ言ってそのまま実家に帰った。
実家で待っていたのは痩せていた母さんと怒っている父さんだった、母さんは「私は言ったよね? 最後まで面倒を見なさいって」と言った、俺はその時、母さんが子供の頃に言った意味を理解した、「ごめん、本当にごめん、母さん」と俺は謝った、するとずっと黙っていた父さんが「謝る相手は母さんじゃないだろ!!」と怒鳴った、俺は言われて気付いて母さんにフツマはどこかを聞いた、すると母さんは「庭にある花壇の中に、お墓を作って埋葬したわ」それを聞いた俺はすぐに庭に出た、花壇の中心に少し歪な字で、フツマ此処に眠る、と書かれた木の墓標が有った、俺はそれを見てフツマの鳴き声を聴く事も共に寝る事も出来ないと実感して、泣き崩れてしまった、何と言ってるか分からないほど嗚咽しながら謝っていたと思う、その時はただただ申し訳ない気持ちと、悲しい思いがごっちゃ混ぜ状態で自分でもなんて言ったか憶えてない、ただ俺が憶えているのは目が覚めたら居間で寝ていたって事だ。
後は2日間、家族でフツマと撮った写真を観ながら懐かしんだ、泣いて笑って落ち込んだりしたけど仕事は待ってくれないから、俺は東京に戻ることになった、仕事場の皆は慰めてくれたり、上司は「有給休暇はまだ取れるから、まだ休んでも良いぞ?」と言ってくれたりしたが、今は仕事に集中してる方が気持ちが紛れて良いし、悲しんでもフツマは生き返らない、なら仕事に没頭した方が良いと思ったからそこから俺は馬車馬の如く働いた。
そしてその1年後に母さんも他界してしまった、俺は父さんと一緒に葬式準備をして開いた、参列者の中には母さんの友達も来て泣いていた、父さんも静かに泣いていた、俺は父さんが泣いた所なんか見たこと無かったから驚いた、俺は泣けなかった…悲しい気持ちはあった、だけど葬式中は泣けず、終わって綺麗に維持されてた自分の部屋に戻って涙が出て止まらずそのまま寝てしまっていた。
フツマも母さんも居なくなって実家は父さんだけになってしまった、「父さんは一人でも大丈夫だから、お前はお前で頑張れ」と言ってくれたが俺自身も寂しいのを紛らわしたいから毎月実家に来るようにした。
これが俺がまだ出雲 弥伊だった頃の記憶だ。
他にも細かい事はあるけど今はフツマとの出会いと別れ、そしてこれが俺の後悔と懺悔の話だ。
次回は川でフツマに会った時に戻ります。