付録2
「わたし、ほんをあげたの。」
メアリーは、リンゴのはなびらのようなピンクのくちびるをかみしめて、
くやしそうにいいました。
「それのどこが、わるいのですか?」
ジョージはうつむくメアリーのあいらしいすがたに, めをほそめて
ふしぎなきもちになりました。
フランクはほんがだいすきです。
しかも、かわいいメアリーがくれるほんなら、いやなはずがありません。
ふしぎそうにみるジョージに、メアリーは、おとななのにとあきれてしまいました。
「たしかに、ほんをおくることはわるいことではないわ。
もんだいは、わたしのずるがしこいおこないのほうなの。」
メアリーは、ぼくしさんにざんげをするように、
くたびれたさぎょうぎのジョージにひそうなかおでこういったのです。
「『ティル・オイレンシュビーゲル』のほんをおくったの。
わたしがよみたかったから。
もう、おとなのフランクに。
きっと、フランクはあきれているわ。
でも、おにいさんだから、なにもいわないでいてくれるの。」
メアリーが、あんまりひげきてきにかおをゆがめてざんげをするので、
ジョージは、もうすこしでおおわらいをするところでした。
40ねんもいきているジョージからしたら、
メアリーもフランクもまだまだヒヨコのようなものです。
それに、メアリーのことがだいすきなフランクには、
どんなにりっぱなくんしょうよりも、
メアリーに本をよんでほしいとねだられるほうがうれしいはずです。
ジョージは、いきをはいてまじめなかおをつくると、
つとめてしんけんにメアリーにいいました。
「メアリーじょうちゃん、しんぱいはいらないよ。
40さいをすぎたアタシだって、ティルはいまでもだいすきですから。
フランク坊っちゃんもむかしから、ティルがだいすきです。
イエスさまにちかってもよいです。
ぼっちゃんは、メアリーじょうちゃまのプレゼントをよろこんでおりますよ。」
ジョージはまじめなかおをつくるどりょくをしました。
メアリーは、そのかおをジッとみつめて、それからほっとしたように、やわらかいえがおになりました。
「よかった。」
メアリーは、こころからそうおもいました。
でも、むねにあてたひだりのてがフランクのブローチにあたると、また、くらいきもちになりました。
「やっぱり、わたしはわるいこだわ。
フランクは、私のためにおこづかいをためて、こんなにすてきなブローチをかってくれたのに…
わたしときたら、クリスマスマーケットのゆうわくにまけて、じぶんのためのかいものばかりをしてしまったの。
いまからでも、フランクのよろこびそうなおくりものをしたいけど、おこづかいはもうないし。」
メアリーは、じぶんのおこないにかなしくなりました。
そのしんけんなようすがかわいくて、ジョージはまた、
わらいたくなりましたが、ぐっとがまんしました。
「それはこまりましたね…。」
ジョージは、まじめなかおをつくって、いっしょになやんであげました。
「そうなの。なにか、おかねのかからない、
すてきなものがあればよいけれど・・・。
そんなつごうのよいものあるわけがないわ。」
メアリーは、さむさでほおをあかくしながらしんけんになやみました。
ジョージも、メアリーのためにひっしにかんがえてあげました。
おかねのかからない、ステキなもの…
「では、ぼっちゃんのえでもかいてあげたらどうでしょう?」
「ダメよ。わたしのえなんて、このすてきなブローチにはかてないわ。」
「では、まいにちてがみをかいてみたら?」
「ダメよ。わたし、そんなにかくことないもの。
にっきだって、いつもおかあさまにしかられながらつづけてるんだわ。」
メアリーは、ぜつぼうてきなきもちになりました。
「では、けいとのぼうしはどうでしょう?」
「ダメよ。けいとをかうおかねなんてないわ。」
「だいじょうぶです。けいとはありますから。」
ジョージのことばに、メアリーはビックリしました。
「ジョージ、アナタがけいとをくれるの?」
メアリーがおどろいてきくと、ジョージは、くびをふりました。
「いいえ、アタシのけいとではありません。
ぼっちゃんが、アタシにしまつをたのんだしろものなのです。」
ジョージは、なにかたのしいことをおもいついたようにほほえみました。