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食事が終わって夜になると、
メアリーは使用人の食堂を借りてジョージとセーターを解きました。
それは、フランクが子供の頃に着ていたもので、
亡くなったフランクのお母さんが、彼のために作ったものでした。
セーターが着れなくなっても、フランクは思い出のセーターを大切に持っていました。
それなのに12才になって、オーストリアに行儀見習いに行くのが決まってから、
ジョージに処分することを頼んできたのでした。
「もう、大きくなったのだから。」
フランクのその言葉が、ジョージを寂しい気持ちにさせたのでした。
フランクが、急いで大人になろうと無理をしているような、
そんな態度が、ジョージには、切なく感じたのでした。
いくら、成長するからと言っても、お母さんを思う気持ちを置いて行かなくてもいいと、
ジョージは思いました。
だから、フランクに頼まれましたが、セーターを捨てる事が出来ずにいたのです。
でも、メアリーの編んだ帽子に変わるのなら、
きっと、奥さまも喜んでくださるに違いない。
ジョージは、そう思いました。
ジョージは、メアリーとセーターを解いて糸にすると、
次に四本の木で出来た編み物用の針を取り出しました。
「ジョージは、男の人なのに、編み物をするの?」
メアリーは不思議になって聞きました。
「アタシは、アイルランドの漁師の生まれなんでね。
男でもセーターを編むんですよ。
ついでに、網の修理なんかもうまいんですがね。」
ジョージは、そう言ってメアリーに帽子の編み方を教えてくれました。
メアリーは、メリアス編みと言う、基本の編み方で精一杯でしたが、
アイルランドの漁師のセーターは、とても複雑で美しい模様を編み込むのだそうです。
それは、家紋のように家によって違っていて、
嵐のために海で溺れないように、願いが込められるのだそうです。
「メアリー嬢ちゃん。
嬢ちゃんも、どうか、フランク坊っちゃんの幸せを祈ってくださいね。」
数日がたち、帽子がある程度出来たとき、ジョージが仕上げを手伝いながらメアリーに言いました。
「うん。今は、これが精一杯だけれど、
いつか、ちゃんとしたセーターをフランクに編んであげるわ。」
メアリーは、素直に微笑みました。
「その時は、また、アタシが教えますからね。」
ジョージは、メアリーの素直な笑顔にフランクの明るい未来をみた気持ちになりました。
数日後、帽子は出来上がり、メアリーのお家で作られたワインと共にオーストリアのフランクの元へと送られました。
そして、ジョージの生まれ故郷のアイルランドの家にも、
メアリーの代筆した手紙と共にワインが送られたのでした。