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「私、本をあげたの。」
メアリーは、リンゴの花びらのようなピンクの唇を噛み締めて、くやしそうに言いました。
「それのどこが、悪いのですか?」
ジョージは、うつ向くメアリーの愛らしい姿に目を細めて不思議な気持ちになりました。
本なら、フランクは大好きです。
しかも、大好きなメアリーがくれる本なら、嫌なはずがありません。
不思議そうに見るジョージに、メアリーは、大人なのにとあきれてしまいました。
「確かに、本を送ることは悪いことではないわ。
問題は、私のずる賢い行いの方なの。」
メアリーは、牧師さんに懺悔をするように、
くたびれた作業着のジョージに悲嘆な顔で見上げてこう言ったのです。
「『ティル・オイレンシュビーゲル』の本を送ったの。私が読みたかったから。
もう、大人のフランクに。
きっと、フランクは呆れているわ。
でも、お兄さんだから、何も言わないでいてくれるの。」
メアリーがあんまり悲劇的に顔を歪めて懺悔をするので、
ジョージは、もう少しで大笑いをするところでした。
40年も生きているジョージからしたら、メアリーもフランクもまだまだヒヨコのようなものです。
それにメアリーが大好きなフランクにはどんなに立派な勲章よりも、
メアリーに本を読んでほしいとねだられる方が嬉しいはずです。
ジョージは、息を吐いて真面目な顔を作ると、
努めて真剣にメアリーに言いました。
「メアリー嬢ちゃん、心配はいらないよ。
40才をすぎたアタシだって、ティルは今でも大好きですから。
フランク坊っちゃんも昔から、ティルが大好きです。
イエスさまに誓っても良いです。
坊っちゃんは、メアリー嬢ちゃまのプレゼントを喜んでおりますよ。」
ジョージは真面目な顔を作る努力をしました。
メアリーは、その顔をジッと見つめて、それからほっとしたように、やわらかい笑顔になりました。
「よかった。」
メアリーは、こころからそう思いました。
でも、胸に当てた左の手がフランクのブローチに当たると、また、暗い気持ちになりました。
「ああ…でも、やっぱり、私は、悪い子だわ。
フランクは、私の為におこづかいをためて、こんなに素敵なブローチを買ってくれたのに…
わたしときたら、クリスマス・マーケットの誘惑に負けて、自分の為の買い物ばかりをしてしまったの。 今からでも、フランクの喜びそうな贈り物をしたいけど、おこづかいはもうないし。」
メアリーは、自分の行いに悲しくなりました。
その真剣な様子が可愛くて、ジョージはまた、笑いたくなりましたが、ぐっと我慢しました。
「それは困りましたね…。」
ジョージは、真面目な顔を作って、一緒に悩んであげました。
「そうなの。何か、お金のかからない、
素敵な物があれば良いけれど…。
そんな都合の良いものあるわけがないわ。」
メアリーは、寒さで頬を赤くしながら真剣に悩みました。
ジョージも、メアリーの為に必死に考えてあげました。
お金のかからない、ステキなもの…
「では、坊っちゃんの絵でも書いてあげたらどうでしょう?」
「ダメよ。私の絵なんて、このステキなブローチには勝てないわ。」
「では、毎日手紙を書いてみたら?」
「ダメよ。私、そんなに書くことないもの。
日記だって、いつもお母様に叱られながら続けてるんだわ。」
メアリーは、絶望的な気持ちになりました。
「では、毛糸の帽子はどうでしょう?」
「ダメよ。毛糸を買うお金なんてないわ。」
「大丈夫です。毛糸はありますから。」
ジョージの言葉に、メアリーはビックリしました。
「ジョージ、アナタが毛糸をくれるの?」
メアリーが驚いて聞くと、ジョージは、首をふりました。
「いいえ、アタシの毛糸ではありません。
坊っちゃんが、アタシに始末を頼んだ代物なのです。」
ジョージは、なにか楽しいことを思い付いたように微笑みました。
誤字の指摘ありがとうございます。
もう、毎回いっぱいいっぱいなので、助かります。
今回はローマ字打ちの間違いのようです(^_^;)
Zu ず ではなく、du づなのですねf^_^;
いつか、誤字を使ったミステリーを書きたいと
考えてるので、書いておきます。