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3・女子会とかもうほぼ関係ない何か

宗教に関する言及があります。

あくまでも個人の考えです。

宗教を貶める意図などは一切ありませんので、悪しからずお願いします。

 彼の名前はニゲラ。一見すると普通のというにはいささか作り物めいた美丈夫だが、その実態は人間と竜の死体から作られた合成獣、竜のキメラである。

 彼はサトルの血を得たことで人の姿を取れるようになったことから、サトルを父と慕い、自分を作ったダンジョンの妖精たちを母と慕う。


 今ニゲラはサトルと一緒にいたいがために、ルーの家のサトルの部屋に間借りをしている。


 ニゲラはサトルが大好きだ。なので、サトルが困っていたらきっと助けてくれるだろう。


「ニゲラ、この人は一緒にダンジョンに潜ってウフフレア食材を探してくれと言ってます。俺は正直、今はダンジョンに潜りたくないです」


 しかしサトルの思惑とは裏腹に、ニゲラはまるで子供のような笑顔を浮かべ、それは面白そうだと手を打ち鳴らした。


「食材? わあ、いいですね! 僕もご一緒していいですか!」


 しまったこいつは食い意地が張っていた。サトルがそれを思い出した時には時すでに遅し。


「もちろん! 君の力が必要だ、ニゲラ!」


 すかさずタイムがニゲラに許可を出す。

 頼られることが嬉しいのか、ニゲラはますます顔を輝かせ、任せてくださいと胸を張る。


「分かりました! 必ずや僕がタイムさんの力になって見せますね!」


 なんとちょろい子だろうか。サトルは額を押さえ深々とため息を吐く。

 これ、もう俺が行かないとか言ったら、二人がかりで泣き落としに来るパターンだろうなあと、声に出さずに独り言ち、サトルはもう一度ため息を繰り返した。


「ニゲラ……君ね」


 せめて俺の話も聞いてくれ、そうサトルが言うよりも先に、ニゲラは楽しみにしていたイベント当日の子供みたいに顔を輝かせ、地面に伏したサトルをまるでぬいぐるみのようにひょいと抱え上げた。


「僕、僕、父さんの作る料理好きなんです!」


 脇に手を入れ抱えられ、足も付かないので逃げることもできず、サトルはうなだれる。

 ああ、駄目だ、この子話聞かない。絶望とまではいかないが、そんな諦念がサトルの胸を占める。


「……分かった」


「俺もサトルの料理好きだ」


 ニゲラに流されるサトルに、タイムが便乗する。

 さすがにそれはどうかと思うので、タイムの額にはチョップをかました。


「お前はもうちょっと自分の料理の腕を何とかしろ、本職だろうが」


「あいた」


 たいして痛くなさそうにタイムは言う。

 そのやり取りを見て、そう言えばとニゲラが不思議そうに首を傾げる。


「父さんの本職は何ですか?」


「事務仕事です!」


 だから料理も冒険者業も俺の仕事じゃないのになあ、と、そんなサトルのボヤキを聞いてくれるのは、フォンフォンと鳴く妖精たちだけだった。



 ニゲラも乗り気で、タイムもサトルを逃がす気はないらしい。

 ということで、サトルはダンジョンに潜って食材探しをすることを、否が応でも引き受けるしかなかった。


 ダンジョンに潜る際、多くの冒険者たちが集合の場所としている階段広場がある。

 そこでサトルたちを待っていたのは、見覚えのある二人の青年だった。


 サトルもあ然としたが、二人も目に見えて狼狽え、どうしようかと互いに視線を交わしてはおろおろとしていた。


「……お久しぶり、というほどでもないですね。この間は本当にありがとうございました」


 とりあえずサトルが礼を言うと、ホップとオーツの二人も、サトルに合わせて敬語で言葉を返した。


「いえ、あの……こちらこそ、以前は大変失礼な事を言ってしまって」


「貴方だったんですね。あの、その、怪我の方は?」


 サトルの知る限り、このホップとオーツという二人は、敬虔なジスタ教信者で、ジスタ教の思想の一つである獣の特徴を持つ人間は、獣の汚れを持っていると考えているらしい。

 しかし彼らは別に根性が悪いわけではなく、初対面の時にはオリーブたちとダンジョンに潜ろうとしていた見かけない人間サトルを、本気で心配して声をかけたらしいと言う事、暴漢に襲われたサトルを助けた事などから、正義漢に近い思想の持ち主であることが分かっていた。


 だからこそサトルは困惑する。

 何でよりによってタイムはこの二人に依頼を出して、ダンジョンに同行してもらうことにしたのか。


「お陰様で」


 怪我はすっかり回復していると答えるサトルに、二人は目に見えてホッとする。

 口の中で噛むように、良かったと繰り返す二人に、サトルは違和感を覚える。


 安心しつつホップが確かめるようにサトルに問う。


「あの、貴方はダンジョンの勇者様なんですよね?」


 サトルがダンジョンに召喚された勇者だと言う話はある程度広まっている、そう聞いたのは最近だ。それを話してくれた少女と、ホップ達は顔見知りらしかったので、知っていたとしてもおかしくはないだろう。


 しかし二人には勇者らしからぬ姿を見られているサトル。素直にそうだとは言えなかった。


「ぐう……そう、言われているけど自覚はない。というか、人にボコられるような奴だし」


「あ、いえ、あれは……彼らは」


「え、あ……あー」


 サトルの言葉に、二人は何故か口を濁す。

 何か答えにくい言葉でも返してしまっただろうかと考え、サトルは二人に助けられた当時のことを思い出そうとする。


「父さん、お二人と何かあったのですか? というか怪我って?」


 不思議そうに問うニゲラに、二人とは確執は無かったはずだと答え、サトルは気が付く。

 二人との間に確執になるような事は無かった、しかし、二人の言葉と暴漢三人の言葉には、共通することがあったの思い出す。


 つまりこの二人は自分に負い目があるんだな。そう気が付くと、サトルはすぐに考える。


 二人に対して悪意はない。恩義はある。この二人はジスタ教信者だ。サトルは今現在ガランガルダンジョン下町の自治体寄りの組織に世話になることが多い。三すくみの権力構造の一端にだけ頼っていては、いつ他の勢力と衝突するか分からない。しがらみは多くなるが、保険も掛けやすくなるなら、多少は面倒ごとも必要だ。


 何よりこの二人は、サトルの考える限り善人だ。


「父さんは何を考えこんでいるのでしょうか? というか、怪我って? 僕の知らない間にまた怪我したんですか? どういうことですか?」


「何か、微妙に企んでる顔してる気がする。ワームウッドみたいな顔してる」


 ニゲラとタイムの言葉は聞かなかったことにする。


 サトルは気まずそうに視線を逸らす二人に、出来る限り優しい声を出して話しかける。


「俺の国には、魚心あれば水心あり、という言葉があるんです。好意を持ってくれる相手には好意を返す気持ちがあるという意味です」


 ホップとオーツがおずおずとサトルに顔を向けてくる。


「ホップ、オーツ、君たちは少なくとも、俺を悪しく思ってはいないだろう? 俺だって、君達を悪く思う理由はないんだ」


 ほっと気が緩む二人。無防備になっている瞬間こそ、楔を打ち込むのに適した瞬間だというのは、誰でも考えるところだろう。


「例え、あの三人と君達の信じる宗教が同じでも」


 サトルを襲った暴漢三人がジスタ教の信者であると、サトルがにおわせると、二人の顔色が変わった。

 血の気が引き、慌てて首を垂れる二人。

 彼らもどうやら気が付いていたらしい。


 サトルを襲った暴漢たちの内一人はサトルに向かい「穢れがうつる」と吐き捨てていた。

 サトルがこの世界に来てから、明確に穢れという言葉を聞いたのは、この二人の言葉が初めてだった。


 自分たちが信じる宗教が、他者を傷つける原因になったということが、二人にとってはよほど心苦しい事だったのだろう。


「すまない」


「俺たちが、止めることもできず」


 自分たちが犯した罪でもないのに謝罪をする二人に、サトルはいささか芝居がかった仕草で肩を叩く。


「殴られ蹴られるくらいなら痛いだけだ、問題ないさ。君らが心を痛めるべきではないし、俺がそれを責める事は無い。ホップとオーツは、俺を助けてくれたのだから」


 穏やかに、やさしく許すサトルに、二人は目に涙すら溜めて膝を突く。

 それはさながら神の身元で懺悔するかの如く……。


「ふっと思ったんですけど、父さんって……宗教家向いていそうですよね、職業として」


「だなあ、思ってたよりいい性格してるかもな」


 好き勝手言ってくれるなあと思いつつ、サトルは少しだけ反論してみるも、タイムはそれを胡散臭い物でも見るような目で返す。


「残念ならが、俺は自分の感情優先だから、宗教家は向かないよ」


「そういう所だろ、言ってることとやってることが乖離してら」


 乖離していると言われ、サトルはそうだろうかと首を傾げる。


 人の懺悔を聞き赦しを与えるのは、神でも仏でも無く、代行者としての人であるとするならば、確かにサトルは宗教家に向いているのかも知れなかった。


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