0・妖精たちはコイバナがお好き
恋愛について、積極的な妖精がいた。
彼女の名前はラブちゃん。
ラブちゃんは黄金の蜜酒の妖精だ。
黄金の蜜酒は、所謂ハネムーンの語源にもなった通り、愛を体現するような飲み物だ、とラブちゃんは確信していた。
つまるところ、ラブちゃんは自分を愛の妖精だと信じて止まなかった。
そしてそんなラブちゃんに賛同する、クラビーという果物の妖精、ディーヴァとプリマ。
彼女たちもまた、人の営み、愛の言葉にとても興味を持っていた。
さて、ではある日の彼女たちの会話を、人の言葉に訳してみよう。
「サトル様は一体何方がお好みなのかしら?」
と、プリマ。
「彼は奥手、というわけでは無さそうよ。どうも、自分からあえて女性と一線を引いているのね」
と、ラブちゃん。
「あらあら、うふふふ、何か、女性に対する怯えでもあるのかしらね」
とディーヴァ。
「サトルは紳士です!」
と、テカちゃん。
彼はヒカリゴケの中の発光物質を生み出す細菌の妖精だ。
じろりと、三妖精に睨まれ、テカちゃんはすくみ上る。
「話に口を挟まないでくださる?」
「紳士じゃないわね、貴方」
「あらあら、うふふふ」
キュピー、っと常にない甲高い鳴き声を上げて泣きだしテカちゃんを、麦酒の妖精エールちゃんが引っ張って部屋の隅っこに連れて行く。
「テカちゃん、こっちおいで」
「わーん、怖いですよお姉さん方」
キュムキュム泣くテカちゃんを、エールちゃんは慰めながら言い諭す。
「テカちゃん、いい? アルコール度数の高いお姉さま方には絶対に口を挟んじゃだめだよ? あの人たちはああやってにこやかに話しているように見えて、実はものすごく発酵しているのだから」
テカちゃんはその言葉の意味をよく理解はできなかったものの、エールちゃんがそれほど真剣に言い諭すならと、分かったと頷くことにした。
「けど、どうしてお姉さん方はサトルの恋愛事情を気にするんですか?」
テカちゃんの素朴な疑問に、エールちゃんはすこし首を傾げ考える。
「サトルのことを好きだからかな?」
人間に興味を持つ妖精はまれにいる。エールちゃんもテカちゃんもそのうちの一匹だ。
しかし、サトルという個人に此処まで執着する妖精は、そう多くはない。
しかしサトルの元にはサトルに執着する妖精が集まっている。
なので理由も何も、すべてはサトルが好きだから、で済んでしまうのだ。
もちろんテカちゃんもそれで納得する。
「そうなんですね。僕もサトル好きです」
「私もサトル好きだよ」
テカちゃんの素直な言葉に、エールちゃんも素直に笑顔で返す。
「きっとサトルの傍にいる女の人も、サトルのこと好きですよね」
「そうだね」
「だから誰と仲良くするのか気になるのかな?」
「かもね」
そんな会話を炊事場の主モーさんは、好きということに理屈など必要ないのさ、と悟ったような心地で聞いていた。
さて、そんな妖精たちの思惑など知らず、サトルは今日も色々な女性との親密な時間を過ごしていた。
そんなサトルの女性との時間を、常に傍にいて見守っている者達がいた。
それは、サトルがこの異世界に来ることとなった原因の、ダンジョンの妖精キンちゃん……達ではなく、モーさんが自分の身を分けて作った小さな分身たちだった。
小さいモーさんたちは、常にサトルの傍で、サトルの恋愛事情をデバガメしていた。
そんなモーさんが目撃した、サトルと数多の女性たちとの、恋愛フラグすら立たない日々を、今回は紹介しよう。




