7 咲とのデート 第二ラウンド
それから数時間してリムジンは丁度俺の家の前に着いた。
家に女の子を入れるのは初めてだ。
家の前まで誘いに来ることはあったが、まさか家の中にまで入って来る日が来るとは。
「さて、何ぐずぐずしているのです。早く入りますわよ」
そう言って真っ先に咲は玄関まで歩いて行った。…………俺の家なのに。
そうしてカギを開けた時、俺はある事を思い出す。
今日は誰もいないからと部屋の中を片付けていなかったことを。というかそもそも親がいようがいまいがありとあらゆるものが部屋のいたるところに転がっている状態。それがここ数日は両親が出かけている影響でいつも以上にひどい。
「さ、咲。ま、まぁ落ち着いてゆっくり廊下を歩いてこい」
そう言いながら俺は客間まで猛ダッシュで廊下を突っ切った。
客間のふすまを開ければそこには(分かっていたものの)その想像を絶するほどの世界が。
さらに最悪なことに俺が目の前の景色を見とれているうちに、すでに背後で人の気配を感じた。
「さ、咲。ゆ、ゆっくり来いって言ったのに……」
「なぜ圭様とこんな家の中でバラバラにならなくてはならないのです? 良いではないですか」
「まぁもはや見られた以上どうしようもないけどな……」
別に好かれたいとかそういうのでは無かったけど流石に女子から悪印象を受けるのだけは避けたかった。
が、俺の心中を察したのか、全く唐突にか彼女は一言。
「この部屋のどこがいけないのです?」
「え?」
「実に庶民的でよろしいかと」
庶民的。…………まぁ咲からしてみれば俺は庶民だが、今、全世界の庶民に対して偏見を持たれた気がする。
「わたくしこういう部屋にも憧れていましたからどうぞお気に召さらず」
そう言って咲は喜んで足の踏み場もないような部屋に入っていった。
時計の針は七時を少し過ぎたところを指しており、あたりの雨もさっきより強くなっていた。
リムジンさえどっかに行っちまった今、帰れとは言えないよな……。
「ん? 何か言いましたか?」
「あ、いやいや何も言ってない」
「そうですか」
でもやっぱり部屋の掃除はしなくては。こんなままじゃだめだ。
「な、なぁ悪いんだけどさ。部屋の掃除、手伝ってくれないか?」
咲はただまっすぐに俺の瞳を見続けていた。
やっぱりお嬢様にっていうかお客様に部屋の掃除を手伝えって言うのはいくら何でもひどすぎる。俺は何言ってんだか。
「いいですわよ。圭様が望むなら」
「え?」
「確かにこの部屋も素敵ですが、キレイな方がいいと仰るのならお手伝いぐらい致しますわよ。なんせ初めての共同作業ってやつですから」
なんかすごい解釈で取られたが、気分良く部屋の片づけをやってくれるならこの際何でもいいや。
そうして俺たちは客間の片づけを始めた。初めは本当にすごかった部屋が見る見るうちにキレイに生まれ変わっていく。
「圭様。このお人形はどちらに?」
「あぁそれは……」
そう言って俺が一歩踏み出した瞬間、足元に違和感を感じた。
「うぉ!」
そこに転がっていたリモコンを踏みつけてしまったのだ。
それで俺の軸が崩れバランスという概念が無くなっていく。
そして…………俺は咲の上に倒れ込んだ。
それから数秒、時間が止まったように俺と咲の目が合う。
「け、圭様。お顔が……近いですわよ」
「あ、あ、悪い。すぐ退く」
その瞬間俺の客間のふすまが唐突に勢いよく開いた。
「圭く~ん」
その明るい声に背筋が凍る。
「あ」
「あら」
「え…………」
そこに現れたのは葵だった。
そしてこの俺と咲の状況を見るなり声が上げた。
「ご、ご、ご、ご、ゴメンね~」
そして葵は一瞬にしてその場から消えてしまった。