5 咲との二度目のデート
今回からは視点が圭君になります。
時系列的には葵が丁度「洞窟の修行」に参加する日の朝。というかその日の圭君の一日がこの章に当たります
二年生になって初めての登校日から数えて最初の土曜日。
俺は咲から「ちょっと付き合ってほしい」と言われ、それがなぜだか『デート』というものに発展してしまったお出かけに付き合わされていた。
例の如く移動手段はとんでもなく大きな、一般人には縁のないリムジン。
「圭様とまたこうしてデートが出来て嬉しいですわ」
今日の咲は以前のデートにもまして体全体からあふれんばかりの楽しみを放っている。そしてそれは、
「前回のデートは学校をサボったという負い目もあって長い時間楽しむことが出来ませんでしたが今回は土曜日なのでずっとず~っと楽しめますわ」
というのが理由らしい。
もちろんそれは俺にとって、色々な意味で危険な可能性を醸し出しているのだが。
俺はその話を聞きながら終始今日という日が無事に終わってほしい手を合わすことくらいしか出来なかった。
そんな彼女の愉快な話は尽きるという事を知らずリムジンが午前8時ピッタリにTCランドにつくまで止むことは無かった。
TCランド。日本でも五本の指に入るほど有名なテーマパークの一つであり、これまた桐原家の資金提供によって経営が成り立っている遊園地。
「まぁそんなわけでここのアトラクションも乗り放題ですわ」
普段なら平日でも人があり得ないほどごった返していて、一つのアトラクションに乗ろうものなら二時間くらい待たされるのがお決まり。
だが、桐原家の人間としてこのテーマパークに入り込めば、「120分待ち」と書かれたアトラクションなら、2分ほどアトラクション乗り場に歩くだけで優先的に乗れるという。
このTCランド自体小さいころに家族と何度か来たことはあったが、まさか母親以外の女の子。それもこのテーマパークのご令嬢と一緒にやって来ることになるとは。
TCランドの開園時間は8時であり、ここに入るためには一時間も二時間も前から長蛇の列を作って入場するのだが、開園時間丁度に到着した俺たちは。
「さて、圭様。こちらに来てください」
咲に手を握られ今まで見たことも無い入口へ。
「ここは?」
「ここですか? ここは関係者入り口ですわ」
そこに並ぶ人なんて一人もおらず、駅の改札口なみにスムーズにスタッフ衣装を身に待っとった人たちが出入りを繰り返している場所へ。
「もちろん圭様は今日一日お金を払う必要はありませんから、ご安心ください」
そう可愛げにウインクをする咲に対して、「いや、流石にそれは悪いよ」なんて言葉通用するわけなく、一瞬で咲含め関係者の人々に言いくるめられる。
何というVIP待遇だよ。コレ。
むしろこっちの方が気が引けるのだが。
「別にお嬢様と一緒におられるのですから堂々としておられればいいのです」
そこに現れるはこちらも同級生。そして咲の使用人というポジションにつく女。
「全く。デートまで付いて来る必要は無いって言いましたわよね亜紀?」
「はい。仰せつかっておりますのでお二人のデートを邪魔するつもりは一切ございません」
「なら…………」
「それでも何分並ばずにアトラクションに乗られるのですから多くの人に恨まれる可能性は十分にございます。その際お二人が傷を負わないようお守りするのが今日のわたくしのお仕事です」
「い、いや! ちょっと待て。俺たち襲われるのか⁉」
今の亜紀の言葉を俺なりに理解すると、順番を守らず前へ前へと進んで行くがゆえに変な奴らや怖い奴らに目を付けられ殺される可能性があるという……。
「大丈夫です。それが起こらないよう私が遠くからお守りいたしますので」
別に亜紀の身体能力や観察力を疑っているわけでは無い。むしろ最強クラスだと思っているほどだ。でも、亜紀だって一人の女の子だし一人の人間。遠くに居れば反応が遅れることもあるだろうし、俺たちが守ってもらえる可能性だって遠ければ遠いほど下がっていく。
「な、なぁ咲。やっぱり亜紀も一緒に行動しようよ。ほ、ほら、人は多い方が楽しいって言うし」
「何を言ってるんですの。これはデートなんですから私たち以外の人間が介入するなんて許されるわけがありませんのよ」
こうして危機と背中合わせな超VIP待遇デートは幕を開けたのだった。
自分もこんなVIP待遇で大きなレジャー施設を回ってみたい・・・