2 洞窟の修行
そして土曜日。結局誰の予定も会う事は無く、私は一人学校へ来ていた。
学校主催のイベント『洞窟の修行』というネーミングセンスゼロのイベントに参加するために。
ざっと見まわした感じ参加者は学校全体の二割くらいといったところだろうか。てか、学校が大々的にやるといった割には人が少ない。
とはいえ、確かに最近は剣も握る事は無かったしゲーム感覚で現実逃避が少しでも出来るならと、このイベントに対する期待はそれなりに高かった。
ルールは簡単。学校に(いつの間にか)作られていた洞窟は階層式になっていて下の階層に行けば行くほどモンスターが強くなるといういわゆるダンジョン形式。
そして下層に行って敵を倒せば倒すほどより多くのポイントがもらえ、三時間後に一番高いポイントを稼いでいた人が優勝。それなりのバトルチップと豪華景品と謳われる何かがもらえるらしい。
仮に洞窟内でモンスターにやられた場合はそこで失格。そこまでのポイントで順位を競うらしい。
そんなルール説明も早々に終わり、午後一時。ついに『洞窟の修行』はスタートした。
参加者はまるでバーゲンが始まったかのように一斉に洞窟の中へと潜っていき一階層の敵を片っ端から片付けていく。
そのせいか私自身は一階層や二階層ではちっともポイントを稼げなかったが、三階層・四階層と進んで行くうちにリタイアする人間もぼちぼち現れていき、逆に私のポイントも増えるように。
だが、そう順調に進むことは無かった。
八階層にてモンスターが一切登場しなくなってしまったのだ。流石に運営側が「八階層まで来る奴はいないだろう」ってモンスターを配置し忘れたという事も無いだろうし。そもそも私より先に九階層や十階層に進んでいる人間だっているはず。
そんな不信感を感じながらも私は敵のいない八階層を抜け、九階層へと。
「嘘……」
だが、そこに広がっていたのはまさしく無だった。モンスターはもちろん、岩も鉱石も照明用ランプもそこには何一つない。
いや、無いは嘘か。まるで災害の後のように床に散乱していた。
その荒野を私は重い足取りで進む。私の心に支配するのが恐怖心なのか好奇心なのか。足が止まる事だけは無く、少しづつ進んで行った。
そしてその先に見つけた。いわゆるパントリーと呼ばれるモンスターたちの食糧庫。
本来のゲームならば大量にモンスターが存在するトラップにも近いような部屋。
「だからってこんな状況じゃ開けないわけにもいかないよね」
外からじゃ中の状況は分からない。特にモンスターのうめき声や捕食音がするわけでは無いが、RPGでもこのドア自体が防音の罠なんてあるある。入った先に初見殺しなんて常套句。
そんな扉を私は恐る恐ると開く。
最初は演出か何なのかまばゆい光に包まれたが、その先に広がっていたのはモンスター地獄でも食料の聖地でもなんでもなかった。
『他と全く変わらない荒れ果てた地』
明らかにおかしい。
急に八階層から敵がいなくなり、その下九階層が大荒れ。
おそらく何者かが環境破壊を起こしているとしか考えられなかった。それが生態系としての原因かプレイヤーの狩りつくしがあったからか。
だが、プレイヤー原因の場合ここまでひどく荒れるものだろうか。相当乱暴なやり方をしない限りこうはならないだろう。
それに八階層と九階層での壊れ方が異なっているのも気がかりだ。もし同一犯が原因ならこんな風に階層によって壊れ方は変わらないだろう。でも現実被害は明らかに九階層の方がひどい。
「……いや」
そうじゃないのかもしれない。もしかしたら環境破壊の原因が下の階層からきているとしたら……。
私が八階層に居た時はまだその原因がやって来ていなかった。そして私が九階層に下りたのと同じくらいのタイミングで原因が上の八階層に上がったとしたら。
「八階層が危ない」
そう思った私はすぐに駆け出した。別にダンジョンの経営者でも何でもないのだからこんな問題放っておいて下に進めばいいのだが、そうすることは出来なかった。
上にはまだまだそこまで戦いに慣れていない人がたくさんいる。
もし、原因がこのまま次々に上の階層へ行ってしまったら。もしダンジョンを抜けて外に出てしまったら。
そうならないために何としてでも早い段階で止めなくては。
葵が一人きりになってしまったが故、心の声だけで十分と極端に会話文が少ない。
てか独り言はあっても会話は一言も無いし(笑)