1巻 140話(最終話) 改変版
本家一巻とは異なり、二巻につなげるべき内容に改変しております。
読みたい人はどうぞ。
二巻本家は次話からになります。
「しかしだ、それを使ってしまったら」
少し否定的な小雪の唇に朱里が人差し指をおいた。
「ダメですよ。それ以上言っちゃ。葵先輩が助かるのですよこの装置で。それ以外のことは何も心配しなくていいのです」
「そんな……」
そして朱里は装置から聴診器のようなものを出して自分の体と葵の体に取り付けた。
「あとは、このボタンを押せばすべて解決です。そう…………すべて解決なのです」
そう言って朱里は装置のスイッチを押す。
すると装置のまわりが光はじめ、しだいに装置のまわりだけでなく朱里と葵も光りに包まれ始める。
俺は微かだが、どこからか『さようなら』という声が聞こえた気がした。
そしてしだいに光は消えていく。
「あれ、ここは」
かすれるような声であたりを見回しながら問いかけるは、ベッドからむくっと起き上がった葵。
「圭君? それにみんなもこんなところに集まってどうしたの」
「どうしたって、覚えてないのかお前」
「確か……モンスターを倒して喜んでいたらふと体に何かが刺さって……え~と、その後は」
「うん、そういう事だ。で、その倒れて死にかけたお前を朱里が救ってくれたわけだ」
「そうだったの。ありがとうね朱里ちゃん」
「あぁ本当にありがとうな朱里」
しかし朱里からの返事がない。というか装置につながったまま朱里はその場に倒れていた。
「朱里⁉ どうしたんだ朱里⁉」
「無駄よ」
焦る俺に対して冷静な声で小雪が放つ。
「無駄ってどういう事だよ」
「この装置が原因だ」
小雪は朱里に繋がれたままの装置を指さしながらさらに語る。
「簡単な話だ。この装置は本来自分と人とで入れ替われる装置なんだ。この装置を完成させるために朱里は何年もの時間を費やしてきた。他の人の素敵な人生をちょっとだけ借りて生活できたらなんて素晴らしんだろうって無邪気な自分の夢を叶えるため。
その装置の開発途中に彼女は何を思ったのか人を蘇生するためにも使えるようにした。まぁ方法は結局普通の入れ替わりと変わらず魂を入れ替えるって感じなんだけど。自分の魂を送ってその人の生を蘇らせる」
「な、何だよそれ。じゃあ、あいつは葵を救うために自分の命を投げたというのかよ」
「その通りよ」
「どうしてそんなことを……」
「分からないのかよ! だから嫌いなんだよ鈍感な奴は‼ 朱里はあれでもお前のことが好きだったんだ。そりゃ葵ほど同じ時間を共有してたわけでも無いし、積極的にというよりも内に恋心を秘めるような乙女だから分かりにくいかも知れないけどよ。それでも好きだったんだよ。まぁ私もいつからどうしてお前の事を好きになったか何て知らねぇーけど。
でも、それに対してお前は朱里の事を友達としか見てなかった。ゆえに当然二人の関係が進展することも無い。それでもあの子は最後までお前を悲しませないために、自分を犠牲にしてまでお前の大切なものを守った。それが友達でありながら、恋のライバルであったにも関わらず……」
「……………………」
俺は全く気付くことが出来なかった。俺のまわりに葵と咲というキャラが強すぎる女が二人いたせいか、俺が女心を理解していなかったせいか。
俺は倒れた朱里の手を取る。
「朱里。本当に悪かった。お前が俺に対してどれだけ思っていたのか気づいてあげることが出来なくて……もっとお前と長く一緒に生活を送りたかった」
俺の目から出る涙が朱里の体にボロボロと。
「こんな、こんなバカな俺を最後まで見捨てず好きでいてくれて、ありがとう」
そう言い終わると朱里は少し口を動かしニコッと笑った…………気がした。
「圭君」
そんな俺に上からやさしい声で葵が呼んだ。
「大丈夫よ。朱里は死んだわけじゃない。私の心の中にいるのよ。そうでしょ小雪。
だってこの装置はもともと人と人を入れ替えるための装置。そしてそれが派生して蘇生できる装置になった。ならば私の心の中で朱里は、生き続けてるってことだよね」
葵は泣きながら胸に手を当てて言った。
そして俺はもう一度朱里に目を落とし、倒れたままの彼女を抱きあげ、しばらく離すことは無かった。
*
それから一日が経ち、校長無き今、これからのことについて話しがあると俺ら全校生徒が体育館に集められた。
「これから神崎星羅校長に変わって新しく校長先生になられる方を紹介します」
一通りの話を終えたのち教頭がそう言うと、壇上には背の高く若い一人の女性が。
「こんにちは。今日から新しく校長になった神崎陽子です」
そう。この無くなるかもしれないと思われていた学校は陽子さんが継いでくれることに。
そしてその朝礼ののち、俺と葵は校長室へと呼び出された。
「で、あなた達はこれからどうするつもり?」
「どうする、と言いますと?」
「あなた達は卒業試験と呼ばれるものに合格しましたね。だけど勉強自体はまだ一年分しかしておりません。つまり、あなた達にはこの学校に残るか残らないかどちらも選ぶ権利があるという事です。で、どうしますか?」
それは俺にとって、そして葵にとってもすごく嬉しい条件だった。
俺と葵はともに顔を合わせて頷く。そう、そんな選択肢が与えられるなら答えは最初から決まっている。
「ぜひ残りたいです」
「そ、じゃあこれからもよろしくね」
こうしてやっと俺たちの高校生活は再び始まりを告げたのであった。
それではロスト学園2もお楽しみください