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賄い飯(牛タンスライス丼&スイカ)

 ただの趣味とも言えるような、自己満足の為だけのスイカの飾り切りを2種類終わらせた俺は、やりきった感に包まれてその後は特に何もせず、ぼ~っとしながら店で過ごした後。


 そろそろ若手ホスト達も店にやって来るような時間が近付いて来ていた事もあり、俺は賄い飯の準備に取り掛かる事にした。先ずは白米を研ぎ、炊飯器のスイッチを入れご飯を炊く。そして、わざと冷凍庫にしまっておかずに、調理台の上に放置していた牛タンスライスを袋の上から指で軽く押さえて、解凍具合を確かめる。


 そんな事をしていたら、店のフロアが騒がしくなってきた。

若手のホスト連中が店へと出勤してきたようだ。

俺は騒がしくなってきた店の表に向かいキッチンからカウンターへと顔を出した。


 「みんな、おはよ~さん」


 店の寮で共同生活を送っている若手ホスト達に挨拶を送る。


 『『おはようございます、氷室さん』』


 何故か若手ホスト連中からの呼ばれ方が、氷室【さん】になっていた。昨日の時点では、氷室君なんて呼んでる奴も何人かは居たはずなんだが。


 「うん? 何で突然【さん】?」


 特に呼ばれ方は何でも好きに呼んでくれればいい。ぐらい思ってた俺だが、昨日の今日で、揃ったように全員が敬称を、さん。にした事を聞いてみた。

すると、昨日の営業中にやたらと俺に絡んで来ていた、閉店間際に酔い潰れてカウンターの裏で転がってた、売れないホストくんが。


 『いや~やっぱ年上だし、ホストって訳でも無いし、後……酔い潰れてた俺に、優しく酔いに効く飲み物をわざわざ作ってくれたって事を、寮に戻ってから皆に話したんですよ、それで呼び方をちゃんとしようって事になって』


 なるほど、そんな理由からか。まぁ俺もなし崩し的とは言え、引き受けた手伝いだ。どうせなら、その店の連中とも仲良くはしていきたい。素直に喜んで受け入れる事としよう。


 若手ホスト達が早速店の掃除に取り掛かろうとしていた。

俺は、若手ホストの中でリーダー格らしい、昨日の酔い潰れた売れないホストくんに声を掛けた。


 「あっそこの酔い潰れ売れないホストくん」


 『酔い潰れ売れないホストって……まぁ正解なんですけど……俺の名前は【東堂 聖】って言うんですよ、覚えて下さいね、氷室さん』


 「了解、了解、ひじき君」


 『ひじきじゃなくて、ひじり、ひ・じ・りですからね』


 きっと何度も、このやり取りをしていてネタにしてるんだろう、怒りもせずに、名前を訂正してきた。

流石は売れてなくてもホストだな。ノリは良さそうだ。


 「ちょっと待ってて」


 そう言い残し、キッチンの中へと戻った俺は、店に来てから真っ先に作って置いた、ホウ酸ダンゴを何個か持ってカウンターへと戻った。


 「これをさ、各テーブルのソファーの下とか、客の目に付きにくい場所に置いていってよ」


 ひじき君は、俺が持って来た物をマジマジと見詰め、正体が全く分からなかったのか、俺に聞いてきた。


 『氷室さん、これ何?』


 「あ~知らん? ホウ酸ダンゴって言って、ゴキブリが食べると死ぬ毒エサ、めっちゃ効くんだよ、1週間ぐらいでゴキブリが店から消えるから」


 『マジっすか? うちの店意外とゴキブリ多くて、たまにお客さんが見付けたりで、何度も駆除業者呼んだりしてるんすよ~』


 「そうなんだ昨日、何匹か見付けたから、作っておいたんだよ、マジ効くから置いていってね」


 俺の説明を聞いた後、ホウ酸ダンゴを持ったまま、店のフロアへと消えて行った、ひじき君は他のホスト連中にもホウ酸ダンゴを置くように指示している声が聞こえてきた。


 俺はその声を聞いた後、頑張って店の掃除をしている若手ホスト達の為に、賄い飯を作る為、キッチンの中に帰って行った。


 ガスコンロの上に大きめのフライパンを乗せる。

この店に来て、前のキッチン担当だった人のやった事の中の一つであろう、このフライパンの仕上がり具合には、素直に感心してしまっていた。

コーティング処理等は一切していない、ただの普通の鉄のフライパンなのだが、しっかりと【油ならし】がしてあり表面にもちゃんと油の膜が出来ていた。


 俺はフライパンの仕上がり具合に感心しながら、ここまで育てたフライパンを台無しにしないよう、引き続きしっかりと使う事を決めた。


 油を垂らし熱したフライパンに、袋に入った牛タンスライスを一気に全部投入して、強火で炒めていく。

塩コショウで味を付け、焼き色と少しの焦げが肉に付いてきたら、仕上げの刻みネギを入れて火を止めた。後は余熱でネギを炒めて完成。


 炊き上がったご飯を、皿に盛り付ける。流石にホストクラブに、丼は無かったので、少し深目の皿を代用に使う。

ご飯の上に焼いた牛タンスライスを乗せて、最後に均等になるように、フライパンに残っている油と肉のエキスを掛けていって、本日の賄い飯である、牛タンスライス丼を完成させた。


 皿を両手に持ち、キッチンからカウンターへと人数分運び終えた後に、カウンターにあるマイクを握り。


 「賄いが出来たぞ、熱いうちに食えよ~」


 そうお知らせを入れると、掃除の手を休めて若手ホスト達が、カウンターの方へと戻ってきた。

並んでる皿の横に俺は、一味唐辛子の小瓶を置いて。


 「今日の賄い飯は、牛タンスライス丼な、好みで一味唐辛子掛けて食え、後、肉のおかわりは無いけど、飯はまだあるから、欲しかったらキッチン行って勝手に盛ってこい」


 そして、キッチンの冷蔵庫の中に入れておいた、使い道が無くなったスイカの果肉を、ボウルに入れ、カウンターへと持っていく。


 「今日の賄い飯は特別に食後のデザート付きだぞ~スイカな、全部食えよ」


 俺は、ガツガツと美味い美味いと言いながら、賄い飯を美味しそうに食べてくれている若手ホスト達の姿を見て、作った甲斐があったな。そう思っていた。


 

 

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